厚労省、今夏にもサリドマイド使用登録義務化へ

神と悪魔の薬 サリドマイド

神と悪魔の薬 サリドマイド

深刻な薬害を引き起こした鎮静・催眠剤サリドマイド」をがんなどの治療目的で医師が個人輸入するケースが急増している問題で、厚生労働省は11日、輸入するすべての医師に対し、今夏にも運営を始める「サリドマイド使用登録システム」(SMUD)に患者情報を登録することを義務づける方針を固めた。
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20060612AT1G1100H11062006.html

この記事だけを見ると,まるでサリドマイド個人輸入する医者を非難しているようにも取れる.


たしかにサリドマイドは深刻な副作用で知られているが*1,最近では他にも効果があることが分かってきて再評価されているそうだ.薬と毒とは本質的に同じものであり,強力な薬ほど副作用が大きいことも多い.深刻な副作用のある風邪薬などは使いたいとは思わないが,例えば癌で生きるか死ぬかの瀬戸際なら副作用があるから抗ガン剤を使いたくないとは言わないだろう.

一方、癌組織への毛細血管の成長を阻害し、結果癌への治療効果があることがわかってきた。
その他サリドマイドはさまざまな疾患に効果があるとされている。以下それを列挙する。

  1. ハンセン病の皮膚症状の改善
  2. エイズウイルスの増殖抑制
  3. 糖尿病性網膜症と黄班変性症の予防
  4. 各種の癌に対する抗癌作用

wikipedia

そういう状況であれば,患者としては国が重い腰を上げて再認可するまで待ってられない.ただ何もせずに患者が苦しむのを黙って見ている政府より,並行輸入してでも治療を進める医師の方がよほど良心的な気がする.

もとの記事も、たとえば次のように書くと受ける印象が変わってくるのではないだろうか.

「かつて鎮静・催眠剤として大量に使用され深刻な薬害を引き起こした「サリドマイド」だが,近年は癌治療,ハンセン病の症状改善,糖尿病網膜症の予防薬などとして再評価されている.しかし日本では政府による再認可がまだのため,治療目的で使用する医師が平行輸入するケースが急増している.」

追記:

多発性骨髄腫の患者さんの中で妊娠可能な女性の割合ってどれぐらいなのだろうか?

多発性骨髄腫は、男性に多く発生する高齢者の病気です。年齢別に発生頻度を比較検討すると65〜70歳にピークがあり、40歳以下では非常に少なく、全多発性骨髄腫症例の2%以下を占めるにすぎません。

http://d.hatena.ne.jp/physician/20060612#p1

なるほど.まあ,それがお役所仕事という奴ですよ.

*1:皮肉な話だけど,「胎児に深刻な影響が出る」ということは,裏を返せば「母体/妊婦以外には深刻な影響はない」「目眩や吐き気,脱毛や肌荒れなどの自覚症状もほとんどない」ということでもあるよね.(服用後1〜2日で強烈な吐き気や肌荒れなどがあれば,誰も睡眠薬として使いたいとは思わない.まして服用後に死亡例や流産が多発すれば即禁止されただろう.そういう症例がなかったから広く使われ,母体にもほとんど悪影響が見られなかったからこそ,被害も大きくなってしまった.)実は癌患者にとってみれば,サリドマイドは「副作用の小さい抗ガン剤」なのかもしれない.