『デスマーチ』著者 エドワード・ヨードン氏インタビュー

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070508/270287/

「無理なソフト開発」は常態
技術者が生き残る鍵は交渉力

なんだか恣意的なタイトルだな.
デスマーチは常態です.だが,「無理なソフト開発を強いること」を肯定しているわけではないし,間違った技術知識や誤った経営判断に基づく失敗まで認めているわけでもない.

デスマーチを成功に導くのに重要なのは,経営者や営業の間違った意見を退ける「政治力」です.単なる調整力や怪しげな「コミュニケーション能力」ではありません.

ところが、デスマーチの課題というのは、技術やソフト工学の側面ではなくて、プロジェクトの交渉など、主として政治的な部分にあるのです。
今日では、様々な手法があり、ソフトを開発するのにどのぐらいの期間が必要になるのかを、かなり正確に予測できます。ところが、手法を使って出した正確な開発期間を、企業の上級幹部が政治的にはねつけてしまう。「競争が激しい。開発期間をもっと短くせよ」と言ってくる。こうして色々な問題が発生していきます。
20年前、開発期間を予測する手法は非常に原始的なもので、正確とは言えなかった。このため当時の上級幹部は、開発期間の数字を出したソフト技術者に対し、「無能だ」と言いました。今は正確な数字を出しているのに、「非協力的だ」、「頑固だ」と言ってくる。結果はどちらもデスマーチです。

ここで問題としているのは「交渉力などを含む『政治力』」であって,単なる「交渉力」でない点に注意.*1

政治的な取り引きには取り引き材料というものが必要になる.その手段の一つが「この一件からは手を引かせてもらいます」で、最後の手段が転職だ.転職という最後の切り札が封じられた日本企業では,現場の人間に政治力を期待するのは難しい.

そもそもソフトの世界で働きたいという人の多くは、政治的なことが嫌いでソフトの仕事を選んだわけですから。

その通り.

驚いたことが一つあります。私が初めて日本に来たのは1989年で、その後90年と91年に来日しました。当時、日本の皆さんは楽観的で、自信に満ちあふれていました。
ソフト開発に関係する方々は、「自分たちが何をやっているかよく分かっているし、成功している。ソフトについては日本が一番分かっています」とおっしゃっていた。

バブルが今正に崩壊していた時,管理職は「まだ大丈夫だ」「『不景気』は一時的なモノだ.またすぐに景気は上向く.」と思っていたのではないか.しかしそれは異常なバブルという状態が終わり,普通の状態に戻っただけ.

4度目の来日となる今回は、それが大きく様変わりしました。会う人は皆、「こういう課題がある、ああいう課題がある、これだけ物事が複雑になってしまうとどうしていいか分からない」と話され、困惑されている状況が見て取れました。

ようやくバブルが終わったことと,全てが手遅れになったと認識したのではないか.

けれども、私から言わせればそれは非常に健全な状態だと思います。謙虚な気持ちで慎重に色々な課題に取り組んでいけるからです。慢心状態は健全ではありません。

*1:なお,私は「正確な開発期間」に関しては,極めて懐疑的だ.とはいえ,極めて単純な構造のアプリに関しては,必ずしもこの範囲ではないかな.