IPv6論

http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50849028.html
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/f0a92ba1bbd8a6510afb2d02b4f79f29
メモ

IPについては素人なので技術的なコメントは差し控えるが,池田信夫氏が技術に関して素人なのはいつものことで,なんでこんなのが有名ブロガーの顔ができるのか全く理解しかねる.まったく残念なことだが,この程度の人の方が素人受けし易いということなのかもしれない.

コメントより

IPv6の最大の問題点はIPv4と互換性がないことです。

「そんなことは百も承知。だから導入がなかなか進まないのだ。」という所では.


政府の「対策会議」については全くのムダでしょう.必要なのはOSやアプリ,各種ネットワーク機器等々のv6対応で,これはもう何年もかけて世界規模で進められてきたものと思う.たとえ日本政府がv6対応をどれほど推奨しようとも,その手のソフトやハードを作っているのが日本企業でない場合が多く,彼らが日本政府の指示に従う義理などないのだ.

まだわからないようだから、中学生でもわかるたとえ話をしましょうか。

金は、稀少な金属です。その需要は、供給量をはるかに上回っています。しかし、金の「枯渇」は問題にならない。なぜでしょうか。かりに金鉱山が枯渇しても、市場に出ている金を買えばいいからです。

言い換えると「池田信夫氏でも理解できるレベル」ということですね.

残念だけど,比喩が適切でない*1.たしかに金は高価ではあるが,装飾品や金塊としても大量に保存されていて,必需品でない部分が多いのだ.LSIの配線などではなくてはならない材料だが,一つ一つの消費量はごく微々たる物だ.言ってしまえば取り引きされるために確保されてる比率が高く,実際に産業で利用されてるのはその一部にすぎない.また再利用も容易で,純度99.99999...%の金の延べ棒は,溶かすだけでそのまま原材料に使用できるだろう.IPアドレスの再利用はそこまで簡単じゃない.*2 *3

IPを例えるなら,むしろ電波の帯域や土地,或いは石油の方が適切だろうね.

仮に,

  • 土地は一定量しかなく,(埋め立てなどを除いて)増えることはない.
  • 年々,人口は一定の比率で増え続けており,減ることはない.*4
  • 高層ビルを建てたり地下都市を建設することで,ある程度は見かけ上の面積を増やすことは出来る.しかしそれらの建設には非常に高いコストがかかる.
  • 人間は仕事上などの理由で住む場所は限られる.必ずしも土地が安い所に住むわけではなく,住民の適切な再配分は非現実的である.
  • 土地は何かに利用されているのが普通で,「この土地が必要になったから,すぐに明け渡してくれ」と言われても簡単にはできない.*5
  • 土地は均質な財ではない.土地の面積や形状,立地,駅からの距離や表通りに面するかいなか,日照権など,特定の条件を満たさない限り利用できない.例え土地が余っていても,最適な候補地というのが全くない場合も十分考えられる.

とすると,土地が枯渇するのは時間の問題でしょう.平均的に見ればどれほど土地が余っていても,首都圏を中心に都心部では土地が余っていないのは誰もが知る所だ.*6

私は、アドレスの価格は、市場が競争的になれば、ゼロに近づくと思います。

昔,「社会主義が広まれば金の価格は限りなく0に近くなり,トイレの配管に利用されるようになるだろう」と言った人がいるそうな.で,現実にどうなったかはご存じの通り.

特にインターネットに関しては,市場が完全に競争的にすることは相当に難しいだろう.なにしろ互いに利害が相反する様々な国や組織が関与しているのだからね.*7まずはその競争的な世界統一市場というのを,一体どうやって作るのか聞かせてもらいたいものだな.*8

IPv6 エッセンシャルズ 第2版

IPv6 エッセンシャルズ 第2版

追記:

amazonの書評より.

電波利権 (新潮新書)

電波利権 (新潮新書)

国による配分を止めてしまえば、市場原理によって最適な配分が行われるはずだと信じ込むのは、あまりに幼稚な机上の空論でしかない。ヨーロッパにおける第三世代携帯の周波数オークションの失敗を見れば、この世界に市場原理が上手く働かないことは火を見るより明らか。コスト割れのサービスを乱発しても既得権を守ろうとする市場原理に反した輩がいることを指摘したのは、著者自身ではないか。
相手を批判するために自論の欠点に目をつぶるというのでは、批判のための批判に過ぎず、特に最後の提言の部分は説得力に欠けると言わざるを得ない。
「電波利権」という大衆受けする上手いネーミングのレッテルを貼ることで、人の関心を得ることに成功しているが、その理論は腰砕けである。」

ほぼ同意.

http://www.13hz.jp/2007/06/ip_8224.html

これは断言してもいい。必ず、そういう時代はやってくる。人間というのはリソースがあればあるだけ、使い道を考える生き物だ。「○○あれば十分」という予言が当たったことは、IT業界においては一度も、ない。実現するのが何年先か、早いか遅いかだけの違いに過ぎない。

そう言えばそうだね.

8086のメモリ1MBの壁があった頃は,アプリは1MB以下で動くものだった.その当時のアプリに関して調査すれば「現在存在する全てのアプリは1MB以下で動く.故にメモリが1MBあればメモリが枯渇することはない.」という結論が得られたかもしれない.しかし恐ろしいことに,今ではOSだけで1GBのメモリを食い尽くすまでに肥大化したOSさえ存在する.

USBメモリに使われるフラッシュメモリFDD代替を目的とするならば,16〜64MBもあれば十分だった.それ以上大きいデータを扱うにはMOやDVD-RAMなどを使えば良いと.「128MBもあればUSBメモリが枯渇することなどあり得ない」という結論も得られたかもしれない.しかし今や,数GBのフラッシュを搭載したiPod nanoや1GB以上のSDカードが刺さったデジカメを持つ人は珍しくない.

http://slashdot.jp/it/07/06/12/1429219.shtml

この過去ログ みたら「携帯電話なら1600万なんてすぐじゃん」という突っ込みがあってびっくり。
http://slashdot.jp/it/comments.pl?sid=364655&op=&pid=1172636

うーむ,まだまだ問題山積みか.

http://www.ipv6style.jp/jp/statistics/address_depletion/index.shtml

  • ところがこの予想が発表された後からIPv4の消費量が増加傾向を見せ始めた。
  • 現在の消費ペースが続くとすると、早くて2009年、遅くとも2016年にはIANAの在庫が枯渇する。
  • しかし上記の1〜3のような状況が世界の各地で起こっていくことを考えると、IPv4の消費ペースがさらに早まることは考えられても、遅くなるとは考えにくい。
  • 加えて「駆け込み需要」として、無くなる前にアドレスを申請してしまおうという動きが起こるのも間違いない

なんだ,オイルショックならぬIPアドレスショックは,既にこっそりと始まっていたのか.

結局2000年問題と同じで,対策は2000年になる前に行わなければならないのだね.2000年を迎えて実際にトラブルが発生してから2000年問題対策委員会を立ち上げても,最早手遅れなのだ。

*1:氏は自称「経済学者」だそうだからIPv6技術について素人なのは大目に見るとしても,IPアドレスの比喩として「金」を例えを出すあたりは経済学者としての能力についても疑問を持たざるを得ない.

*2:レアメタルなんかだと,いざという時に備えた政府の備蓄なんかもあったりするわけだ.

*3:もし実際に金鉱山の枯渇が現実のものとなったら,市場では金の買い占めが起こり,価格が高騰するだろうね.まあその場合でも代替金属への置き換えが進むなどで,ある程度までは対処できるのだろうが....彼はかの有名な「オイルショック」のことを知らないのだろうか?

*4:この仮定はIPアドレスに関しては必ずしも現実的ではない.「一定の比率」どころか爆発的に増える可能性もあるのだ.たとえば全ての携帯電話,iPod,デジカメ,ゲーム機,さらにはRFIDタグが固定IPを持つことを想像してみればいい.

*5:首都圏でコインパーキングがあったりするのは,「必要になったときに簡単に他の用途に転用できるから」という理由もあるそうな.これは月極駐車場でさえもできないことだ.

*6:そして,もし仮に,ほぼ無限の土地を手に入れる現実的な手段があるとすれば,人間はその手段を試さないわけがない.

*7:たとえば国内の電波帯域に関しても,既存のTV局に対して帯域の明け渡し要求を出してもそれを受け入れる局はまずあるまい.

*8:IPの買い占めと売り惜しみ,転売屋や地上げ屋ならぬIPアドレス屋の活動をどうやって禁止するのか.これ一つとっても難しい問題だ.「必要があればいつでも短期間でIPv6に乗り替えられる」「IPアドレスは残り僅かな限りある資源ではない」という安心感がなければ,石油ショックの時のようなパニックが起きて,とっくに買い占め騒動が起こっていても不思議はない.