多剤耐性菌で集団感染か

http://www.asahi.com/national/update/0903/TKY201009030534.html
http://mainichi.jp/select/today/news/20100904k0000m040065000c.html
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc&k=2010090300714

帝京大医学部付属病院(東京都板橋区)は3日、複数の抗生物質が効かない多剤耐性のアシネトバクター菌(MRAB)に入院患者ら46人が感染していたと発表した。うち27人が死亡し、9人は感染と死亡との因果関係が疑われるという。

 同病院と東京都によると、今年2月、入院患者からMRABを検出。4月から5月にかけて十数人に増加したため、感染拡大防止対策を取るとともに過去にさかのぼって調べたところ、昨年8月が最初の発生例と分かった。

これは大学病院だけを責めるのは酷だと思う.どれだけ殺菌しても,感染防止に100%はありえない.*1 *2


日本における抗生物質の乱用は多剤耐性菌を生み出す元凶として,ずっと前から危険視されていたのに,政府もマスコミも重い腰を上げなかっただけ.そういう意味では起こるべくして起こった事件.

日本において、このニューデリー型はどれくらいインパクトがあると言えるでしょうか? もちろん、私たち医療者は、薬剤耐性の拡がりに注意深くあるべきですが、欧米ほどのインパクトはないと私は思います。

というのは、日本ではカルバペネム耐性の病原菌なんて、ぜ〜んぜん珍しくないからです。院内感染対策やっている医者に言わせれば、日常的と言ってもいいくらいです。なぜかと言うと、日本ほど抗生物質が乱用されている国も珍しいからかもしれませんね。

日本は医療費も安いし、使える薬もたくさんあります。そうなるとですね、「効果は狭くても安い薬から」というインセンティブが働きにくいんでしょうね。最初から、がっちりカルバペネムを使うお医者さんが日本にはたくさんいます。滅多に空振りしないので、患者さんからも感謝されます。

先日、私の長男が中耳炎になって、近所の耳鼻科の先生を受診しました。もらってきた薬が、これが何とカルバペネムの内服薬でした。「おぉ、5歳児にカルバペネムかぁ」と感動しました。生来健康な幼児にだってカルバペネムから治療をはじめる。世界では「最後の一手」かもしれませんが、日本では「最初の一手」というのが実情です。ですから、日本ではカルバペネム耐性がすでに拡がってるんです(J.Clin.Microbiol.34(12):2909,1996)。

ランセットの論文を引用して、「いやぁインドは怖い。日本にも入ってこなければいいなぁ」と、あたかも自分たちが欧米側にいるように感想をもたれた方がいるかもしれません。でも、私たちが利用している日本の医療は、世界に耐性菌をばら撒きかねない側にいるのですよ。

https://aspara.asahi.com/blog/border/entry/2zGKcCpH1E

はたして大学病院は加害者なのか,それとも被害者なのか.

「耐性菌で院内感染、藤田保健大病院でも24人」

http://www.asahi.com/national/update/0904/NGY201009040019.html
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100904-OYT1T00824.htm
追記

多剤耐性菌アシネトバクターによる感染の全国的な広がりが懸念されるなか、愛知県豊明市の藤田保健衛生大病院でも今年2月以降、院内感染が発生し、計24人から菌が検出されていたことが分かった。6人が亡くなり、うち1人については感染症が直接の死因ではないが、耐性菌の関与はゼロではないとされた。

 病院によると、初めて菌を検出したのは2月10日。その後も5例が相次ぎ、16日に愛知県瀬戸保健所に報告した。当初、救命救急センター脳神経外科の病棟を中心に検出され、2月末に止まったように見えたが、3月下旬から別の病棟でも散発的に感染が起きた。

 病院は、亡くなった6人の死因は、感染症ではなく消化管出血や肺炎などとみているが、6月に行われた国立大学付属病院感染対策協議会の調査で、うち1人については直接の死因ではないものの耐性菌の関与はゼロとは言い切れないとされた。

 病院では、感染患者を個室に移し、院内の検査態勢を強化するなどの対策を進め、9月1日現在、継続的な感染は起きていない。詳しい感染経路は不明という。 

*1:一番効果的な予防法は診療拒否だが,それでは医者の責務を全うできない.保菌者も含め患者を幅広く受け入れれば受け入れるほど,院内感染の可能性も高まっていく.

*2:過失や、杜撰な管理体制が原因というなら話は別だが……