似非ブラック企業ラノベ「星降る夜は社畜を殴れ」

前からタイトルだけは知って気にはなっていたのだが,今回Kindleで無料お試し版があったから読んでみた.

うーん,つまらん.なれる!SEのような,経験者が語る業界ノンフィクション鬱ラノベを期待すると肩すかしを食らう.純粋にラノベとしても世界観の構築に失敗してるし,起承転結もないしテンポも悪い.


ブラック企業とか社畜がテーマのくせに,作者は表層的な知識しか持ってないようだ.彼自身はブラック企業勤務経験が皆無なのではないか?

読んでて胃がキリキリ痛んだり,過去の光景がフラッシュバックしたり,トラウマが刺激されたりもしないし,全般的に取材が足りてないと思う.「なれる!SE」みたいに就職氷河期でやむをえずSEになり,ブラック業界にドップリつかって身も心もボロボロになって辞めた人が作者をやってる作品はワケが違う.

だいたい一応バリバリのブラック企業という設定のはずなのに,頑張ったから定時に仕事が終わるって,一体なんの冗談だ.仕事が終わったら,さらに10倍の仕事がふってくるから過労死するんだよ.なれるSE7のNBLの方が遙かにブラックだぞ.


一番萎えたのが「非道な上司を鉄拳制裁した俺カッケー」なシーン.それやったらブラック企業の思う壷.ありとあらゆる手を使ってイビリたおされるだけ.


なれるSE7だとこんな感じ.

全身の血が逆流する.蓄積した疲労が吹き飛び代わりに激しい怒りがわき上がってきた.胃の奧が熱い.激情に突き動かされるまま工兵は大濠に詰め寄ろうとした.


瞬間,二の腕をつかまれた
室見がこちらを見ている.鳶色の瞳に鈍い光が宿っていた.
「室見さん……」
なぜ止めるんだ.どう考えても理不尽なのは向こうだろう.はっきりと抗議し場合によっては殴りつけてやっても良いくらいだ.だが室見はかぶりを振った
私たちの契約内容は月に二人分の稼働を提供すること,それ以上でも以下でもない.大濠さんの言う通りよ.こちらの都合で契約時間が満たせないなら代わりの要員を入れるだけ.私の体調なんて関係無い.」
(中略)


今こそ分かった.この現場は異常だ.人が人として扱われない空間.コストダウンのためにありとあらゆる蛮行が許容される場所.努力も誠意も何一つ通用しない.プロパーの指示が全てのおき優先される空間.
逃げなければならない.全ての手段を使って,たとえそれが自分の悪評に繋がろうと,この現場から脱出しないといけない.他でもない室見を救うため.目の前のお人好しな上司を守るために.


だがどうしたらいい?
自分達の身柄は契約で拘束され何一つコントロールできない.仕事は山積み,納期・仕様を調整する権限さえ与えられていない.こんな状況で一体どんな手が打てるのか.逃げ出す絵図を描けるのか.

どうすればーー
工兵は喘いだ.
見上げた天井は牢獄のように低く薄汚れていた.

http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20120815/p1


PRESS ENTER だとこう.

http://el.jibun.atmarkit.co.jp/pressenter/2012/06/24-9214.html

 「駄目だ」課長はささやいた。「サードアイを選ぶんだよ。日比野くんのために」

 「え、でも……」

 「いいから聞きなさい」課長はあたしを遮ると、先日までムツミさんが座っていた席に腰を下ろした。「ここでホライゾンシステムを選択するようなことをしたら、君も異動の対象になる。亀井くんみたいにね」

 あたしは愕然として課長の顔を見た。

 「渕上さんは、とっくにサードアイに決めているよ」課長はちらりと時計を見ると、早口で続けた。「これは、日比野くんの決断力を試すテストみたいなものだよ。明確な理由もないまま、ホライゾンを選んだら、私的な感情で会社に損害を与えた、とか何とか、そんな理由で開発グループから外されるよ」

 言葉を失ったあたしの目を、磯貝課長はまっすぐ見つめた。


 「亀井くんはどうしようもなかった」苦しそうな声だった。「渕上さんは、最初、亀井くんを栃木の配送部に異動させるつもりだったんだよ。ぼくには、せいぜい、インフラグループでITマネジメント課に残すぐらいしかできなかった。でも、日比野くんにも同じことができるかどうか分からないんだよ」

 そういえば亀井くんが、そんなようなことを言っていた。インフラグループのGLが亀井くんを引き取ってくれたのは、磯貝課長が暗躍した結果なのかもしれない。

「あの人は」磯貝課長は視線を逸らした。「このプロジェクトを完全な成功で完了しようとしてる。そのためなら、なんだってやるつもりだし、それだけの力も持ってるんだよ」

 「K自動車とのパイプですか?」

 あたしの問いに、磯貝課長はうなずいた。

 「しかも、それを行使することに何のためらいも見せない」

 「でも、プロジェクトの成功と、ホライゾンを外すことと、どういう関係が……」

 「分からないかな。渕上さんにとって大切なのは、“自分の力”で成功させたということを、自他共に認めさせることなんだよ」

 「……」


 磯貝課長の言いたいことが何となく分かってきた。渕上マネージャが求めているのは、ありきたりなプロジェクトの完了などではなく、劇的なそれだ、ということなのだろう。そのままなら失敗に終わっていたプロジェクトに、渕上さんが登場して、高度なマネジメントによって、鮮やかに成功させた、というシナリオだそのために、渕上マネージャが選定したSIerを参加させ、彼のマネジメント手法を非難した亀井くんを異動させ、そして……。

 「あの人は、可能なら、開発グループそのもののリビルドをしたいんだろうと思う。そのための理由を常に探している。亀井くんがあのとき反抗してくれたのは、いい口実になっちゃったんだよ」

 「私のことも……」

 「たぶんね」磯貝課長は、またあたしを見つめた。「それ相応の理由があれば、いや、相応の理由だと渕上さんが考えれば、あっさり日比野くんを外すと思う」

 「……」あまりのことに声が出なかった。

しかもこれらはブラック企業じゃない.下手すると一部上場企業レベル.


2巻まで出てるらしいけど,これは望み薄やね.

星降る夜は社畜を殴れ (角川スニーカー文庫)

星降る夜は社畜を殴れ (角川スニーカー文庫)

びっくり.3巻出たんだ.