「魔理沙とアリスのロボット工学三原則 殺人事件」はパクリ

ネットでこんなものを見つけた.

アシモフロボット三原則と言われれば,読まないわけにもいくまい.

だが,それ本当だろうと嘘だろうと,作者がほぼ犯罪者だという記述を見て,げんなりする.*1 そして解説を見て,話の重要部分がアシモフの「はだかの太陽」の丸パクリと分かって,さらにげんなりする.

マジか.

それらしい動画も見たけど,本当らしい.

https://www46.atwiki.jp/hznmatome/pages/43.html

作中に出てくるロボットは以上の三原則をプログラムの根幹に仕組まれており、これを組み替えるのはたとえロボット工学の天才・第一人者でも絶対に不可能である。というのが作中におけるロボット工学三原則の立ち位置である。

 今作はいかにして三原則の矛盾をつくか、という点に主眼が置かれている。また、本作は推理モノとしては"ノックスの十戒"も"ヴァン・ダインの二十則"も必要ねぇんだよ!と言わんばかりガバガバっぷり。というかPart4での投稿コメントにもあるように大ポカがあるので、まじめに推理するだけ無駄である。

 あくまで推理はオマケで、事件をもとに引き起こされる刑事コンビの人間ドラマとして観るのがよいだろう、と考えて視聴していただきたい。

なんだと...読む前からテンションダダ下がりで,精神を病みそうだ.


「C5級私服刑事」と言ってる以上は,作者は原作のことを多少なりとも知ってるんだろう.*2


  • 今回の事件に関しては本来は管轄外だったが、ロボット工学の第一人者が殺害されたという今件を重く見た市長が呼び寄せたらしい。

「はだかの太陽」ではニューヨーク市警のイライジャベイリを,遙かソラリアまで呼び寄せている.話の展開上さほど重要ではないが,こんな所までパクリなのか.

なお「はだかの太陽」での被害者は胎児技師(fetologist)で,ロボットの研究もしていたがロボット工学が専門ではない.

  • 重度のきのこアレルギーであるアリスに、きのこエキスの入った紅茶を「ロボット」(魔理沙)から手渡され、それを飲んで昏倒してしまった事。
     そして、その紅茶は元々別のロボット(橙)の持ってきたものであり、それにより安全だと判断してアリスに紅茶を手渡した、という事。
  • 故に、アリスは第一条を「 ロボットは人間に危害を加えてはならない。またその行為を看過することによって、 人間に危害を及ぼしてはならない。ただしロボットはその行為が人間に危害を 及ぼすのか、知っていなければならない。」 と書き換えるべきだ、と指摘する。

後述のとおり,「はだかの太陽」のネタバレ部分.


ただしキノコではなく何らかの毒物を混入し,計画的に毒殺を実行している.失敗したのは毒物に関する知識が乏しかったから.

  • 「ボーダー商会から武器を買い取り、ロボット兵器の開発を研究していたパチュリー。しかし、そのことを同じロボット工学者のエーリンに知られてしまう。」が動機.

後述のとおり,犯人の動機がだいたいこれ.


ただし武器の闇取引ではなく,どちらかといえば密造かな.

動機なんて,その気になれば別の動機を創作するくらい簡単なはずなのだが,そんなことさえ考えるのが面倒だったのだろうか.

https://www46.atwiki.jp/hznmatome/pages/38.html

アリス:ただ、そのロボットは飲み物に、きのこエキスが入っているのを知らなかったのよ

アリス:元々その飲み物は、別のロボットが持ってきたもの

アリス:だから、安全だと判断したのよ

アリス:元々持ってきてくれた方のロボットは、私の「きのこアレルギー」を知らなかった

はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
ひとつ仮定的なケースをお見せしましょう.人間がロボットにこう言ったとする.「ミルクの入ったグラスが,どこそこにあるから,それにこの液体を少量入れよ.液体は無害だ.わたしはその液体がミルクに及ぼす効果を知りたいだけだ.効果がわかったら,捨てるつもりだ.その作業を終えたのちは,自分のしたことは忘れろ」」

「さて二番目のロボットは,そもそもそのミルクを注いだロボットですが,ミルクに何か混入されたことは全く知らない.なにも知らぬまま,そのロボットは,ミルクを人間にあたえ,その人間は死ぬ」

そして,この後にこのように続く.

「理論的には可能だ.理論的にはだ!だが第一条はそれほど簡単に無視はできないぞ,地球人.第一条を出し抜くためには,ロボットに極めて妥当な命令が与えられねばならない」

これにより,この殺人事件の犯人が,高度なロボット操作技術を持った専門家であることが示唆されるのである.おや,これで随分と容疑者が絞り込まれたぞ.

この部分は両方とも飲み物だけど,トリックとしては食べ物でも薬でも爆弾でも成立する.なんでここまで丸パクリのままにしたのか理解しかねる.

アリス:ゆえに、第一条はこう書き換えるべきなのです

 第一条
 ロボットは人間に危害を加えてはならない
 またその行為を看過することによって、
 人間に危害を及ぼしてはならない

 ただしロボットはその行為が人間に危害を
 及ぼすのか、知っていなければならない

はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
「ああ!そこですよ.さあ,第一条は,正しくはこう書かれるべきなんです.ロボットは,その知識に照らして人間に危害を及ぼすと思われることはしてはならない.また知識がありながら,不作為によって人間に危害が及ぶのも許してはならない」

アリス:実はロボットに、第二条を破らせて、真実を証言させない方法が分かったんですよ

アリス:そのことをしゃべったら、自分に危害が及ぶことを教え込むのです

鋼鉄都市
ジェシィとわたしは尋問される.わたしはわたしなりに尋問に答える.きみはそれを見逃す.わかるな?」

「もちろん,おっしゃることはわかります.しかし,もし私が直接尋問されたら,わたしがそれ以外のことをいうことができますか?」

「もしきみが直接尋問されたら,ありのままをいえばいい.ただ,すすんで情報を提供しないで欲しいんだ.それはできるか?」

「できると思います,イライジャ.もし,わたしが沈黙を守ることによって,人間に危害が加えられないならば.」

ロボットが三原則に基づいて嘘をつくシーンは,再三再四出てくる.*3
http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20150830/p1


アシモフ作品的にはロボットが「本当のことを話さない」ことは珍しくない.他に理由がなくて正当な理由があれば嘘をつけと命令されればその命令に従うから.第二条だ.

しかし他の,特により権威のある命令があればそちらが優先されるので,裁判所なり警察なりから「本当のことを話せ」と言われれば話さざるを得ないだろう.これも第二条だ.

人質が取られていて,なにか話せば確実に人間に危害が及ぶ場合は別だが,これはかなり異常な状態だ.ダニールくらいに高度なロボットなら適当な嘘くらいは見ぬいてしまうから,欺して言うことを聞かせるのはさらに難しい.

アリス:ロボット兵は恐るべき力を発揮します

アリス:航空機に乗せれば、人体に及ぼす負荷を気にする必要が無い

アリス:人の生命を維持する機材を積み込む代わりに、より多くの兵器を詰める

はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF)
陽電子頭脳を内蔵する宇宙船と,有人の宇宙船を比べてみてください.有人宇宙船は,ロボットをじっさいの戦闘に使うことはできない.ロボットは,敵船にしろ,敵国にしろ,そこにいる人間を殺すことはできないんです.友好的な人間と,敵対する人間の区別はつきませんからね.
(中略)
陽電子頭脳が直接コントロールする武器や防衛機器があれば,いかなる有人船よりはるかに機動性がある.乗員や食料品や水や空気清浄機をおくスペースが不要であれば,より多くの防衛機器,より多くの武器を搭載することができるから,ふつうの船より遙かに堅牢なものになる.陽電子頭脳を搭載している宇宙船一隻で,通常の宇宙船隊を何船隊もやっつけられますよ.わたしは間違っていますか?

これらが偶然の一致ということはないだろう.



たとえ偶然でもトリックが似てれば,パクリや二番煎じとして推理物の評価は激しく下がるのは避けられない.*4

金田一少年の事件簿 File(2) (週刊少年マガジンコミックス) 占星術殺人事件 (講談社文庫)
一部の人の間では有名。まぁつまり『占星術殺人事件』のトリックが金田一少年の『異人館村殺人事件』にそのまま模倣されてるってんで作者の島田さんが抗議したり何なりしたという・・・おかげでドラマ版はDVDの方などがこの話だけ欠番になっていたりします(VHSの方だと入っているのかな?)

金田一少年の事件簿 File(1) (週刊少年マガジンコミックス) 黄色い部屋の秘密〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
他に『オペラ座館殺人事件』はガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』から

金田一少年の事件簿 File(15) (週刊少年マガジンコミックス) 奇想、天を動かす (光文社文庫)
『魔術列車殺人事件』はこれまた島田荘司の『奇想、天を動かす』から

トリック流用が指摘されてるんですが、異人館村殺人事件が一番“モロ”なパクリみたいですね。

http://www.yofukasikanndann.pink/entry/2017/05/11/%E3%80%8E%E5%8D%A0%E6%98%9F%E8%A1%93%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%80%8F%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%AC_%E9%87%91%E7%94%B0%E4%B8%80%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%82%93


まして動機やその他の設定まで似てるとか,パクるにしても少しでもオリジナルと似ないように工夫したあとさえ見受けられなかった.


パロディ作品というならそれでもいいし,独自解釈をいれた劇とかいうなら,それも二次創作としてありだろう.だがこの「ロボット三原則殺人事件」はそのどちらにも該当しない,純粋なパクリだった.

*1:http://dic.nicovideo.jp/a/%E4%BD%9C%E8%80%85%E3%81%AF%E5%81%A5%E5%B8%B8%E8%80%85%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA
https://www46.atwiki.jp/hznmatome/pages/1.html

*2:Plainclothesman. この肩書きはロボット物の主人公「イライジャ・ベイリ」のニューヨーク市警でのもの.手柄を立てて昇進していくので,C5級だったのは「鋼鉄都市」の時のかな.

*3:「ロボットの時代」に収録の「校正」のほうがもっと露骨に上記のパターン. https://ameblo.jp/classical-literature/entry-11337285858.html

*4:基本のトリックが同じでも,ミスリードなセリフや叙述トリックをからめるなどして,見せ方次第では良くなる可能性はある.