箱物語

そろそろ「コンテナ物語」について一言言っておこうか.*1

....嘘です.単に今ごろ読み終わっただけです.*2

コンテナ物語

コンテナ物語


http://d.hatena.ne.jp/k-takahashi/20140122/1390403151
http://agnozingdays.hatenablog.com/entry/2014/02/04/223603

IT化の例え話で,分かりやすいケーススタデイとして最適かも.

  • 我々はコンテナが導入された世界を知っており,既にその恩恵を受けている.
  • コンテナ自体は何の変哲もない単純な箱で,誰でも知ってるし容易に理解できる.
  • コンテナを使いこなすにはシステム全部を作り替える必用があった.
  • 「今までと同じやり方」に固執する限り,コンテナを導入しても効率は上がらない.
  • 真に大きな変革を起こす原動力は,いつも顧客.
  • たかが箱でも,標準規格の策定作業は大変だった.
  • 流通革命までの道は長く険しい.何度も試行錯誤し,失敗を乗り越えてやっと実現された.


軽い気持ちで読んでみたけど,あーこれ重いわ.

  • いまやコンテナやコンテナ船は常識で誰でも知ってて,貨物船の代名詞.しかしほんの数十年前までは,貨物船とは即ち混載船のことであり,コンテナやコンテナ専用船は影も形もなかった.
  • しかし実はコンテナこそが流通革命をおこした,画期的な新技術だった.なんの変哲もない,単なる箱のくせに.*3
  • それは単に流通革命にとどまらず,生産地の立地条件をかえ,ジャストインタイムと生産のグローバル化を実現し,世界の産業構造さえもかえてしまった.なんの変哲もない箱のくせに.

なにせコンテナ自体は単なる「箱」にすぎず,やってることは「物を運ぶ」,ただそれだけ.それ自体に加工したり動力が付いてたりバーコードで管理したりという機能は一切ない.直接的に付加価値を付けるわけではない.だけど,全てが変わった.


ドイツレベル 1/700 コンテナ船 コロンボ エキスプレス プラモデル 05152*4 DeansMarine ”ハドソン・ゲート”(Hudson Gate)330
コンテナ発明後の貨物船と言えば巨大なコンテナ専用船*5だが,コンテナ発明前は小さくて船足が遅くて古い混載船だった.*6 *7 そりゃもう,一目見て分かるくらいに全く違う作りになってる.


コンテナ発明後.誰もがよくご存じの現在の日常の風景.

http://b.pasona.co.jp/boueki/word/5326/
コンテナ専用船が作られ,コンテナはトレーラーの台車に直接載せるだけ.今ではIT化も進んでいるので,重さや下ろす港を総合的に判断して,各コンテナ載せる順序と場所は自動的に決定され,それに従ってクレーンを操作するだけ.

一個のコンテナの上げ下ろしに2分.巨大な貨物船も接岸してるのは1日程度.


コンテナ発明前.
ハンブルク港ジオラマ 1:250 ペーパークラフト
今ではほぼ完全に無くなった風景だが,コンテナ登場前の混載船時代はこれが普通だったようだ.

  1. 港にある倉庫に荷物を一個ずつ運び込む.(早いものでは一ヶ月前から!)
  2. パレット(2m四方くらいの板きれ)に手作業で荷物を載せ,手作業で縛る.
  3. 小型のクレーンで甲板に挙げる.*8
  4. 荷物を手作業でバラして,手作業で船倉に運び込み,手作業で固定する.固定に失敗すると,それが原因で船が沈むことさえあった.
  5. 船で運ぶ.
  6. 1〜4の手順を逆に行う.(もちろんほぼ手作業.

港での荷揚げ/荷下ろしがほぼ手作業の人海戦術で,危険と隣り合わせの重労働.*9 今より小型の船なのに,荷揚げに一週間かかるのもザラ.人力で行うので事故も多いし,商品の破損と盗難は付きもの.*10 しかも仕事のムラが大きく,忙しい時はクソ忙しくて拘束時間も長いくせに,暇な時はとことん暇.

港の仕事では,雇用がひどく不規則である.ある日には生鮮食料品を急いで荷揚げしなければならない.こんな日には,埠頭に集まった男全員が仕事にありつける.ところが,翌日になると仕事は何一つ無いという具合だ.ピーク時に備えて港には大量の労働者がいなければならないが,平均的な日の需要はずっと少ない.港の仕事は基本的に日雇い労働であり,その特殊性を繁栄して,波止場には特有の共同社会が生まれた.

運良く仕事にありついて朝の七時に埠頭に行くわけさ.ところが船が入ってくるのは夜の九時ときたもんだ.雇われてんだから埠頭を離れるこたあできない.だけど待ちぼうけの時間の分は払ってもらえねえんだ.」

毎朝の儀式でありがたいお恵みに与るためにはわいろが欠かせない.映画「波止場」は相当脚色されているが,仕事にあぶれないためには親分への袖の下が必用だったことは確かである.

激務の肉体労働だけど収入は安定しないヤクザな商売だ.*11

この仕事をひきうけるのが「沖仲仕(おきなかし)」と呼ばれる男達.コンテナ輸送の普及に伴い,急激に数を減らして今や絶滅した職種.



IT化する際に「今までと全く同じ通りのやり方に固執する」がバッドノウハウとして広く知られているわけだけど,(米国の)海運業界はそれを数十年先取りしていた.

たとえば沖仲仕労働組合は,雇用を守るために今まで通りの方法に固執するわけだ.彼等にして見れば死活問題だし,当時はコンテナはニッチなビジネスなので,主力ビジネスを支える沖仲仕の意見は無視するわけにはいかなかった.ではどうするか.

  1. 港にコンテナが到着する.
  2. コンテナから手作業で詰み下ろす.
  3. コンテナに手作業で積み直す.
  4. 船に積む.

こんなことをすれば荷揚げに混載船と同様の時間とコストがかかるようになり,コンテナ流通のメリットを台無しにしてしまう.今の人間からするとバカみたいな話だが,当時はこれが真面目に議論されていたというのだ. *12



コンテナの導入で様々なことが変わった.

  • コンテナ専用船が登場した.巨大でコンテナのみを直接搭載する.*13
  • コンテナ専用貨物列車が登場した.*14
  • コンテナ専用埠頭が登場した.*15
  • 荷物の積み上げ/積み卸しはコンテナ用の高速クレーンやフォークリフトで,コンテナごと行うようになった.人力での積み替え作業は無くなった.

TCM FD430 トップリフターB2 (NYTT仕様) 1台入 コンテナ付属

  • 荷物の盗難と破損が激減した.*16 結果として保険料も下がった.
  • 沖仲仕という職業が事実上消滅した.
  • 様々な法的規制が順次撤廃された.*17
  • 荷主はコンテナに荷物を満載して,コンテナ単位で送るようになった.
  • 流通にかかる期間が短縮され,*18 流通コストも大幅に下がった.
  • それに伴い国際的な水平分業が一般化した.
  • 取引のある工場が海外の,それも内陸部にも作られるようになった.
  • 投資を回収するためには,価格競争に勝たねばならない.他社より高額だと荷主は他社へ逃げてしまう.
  • そのために少しでも早く,少しでも大きく,少しでも効率の良い貨物船や港が必要になる.
  • 海運業は多額の先行投資が必用なビジネスになった.昔は古い輸送船を軍から安く払い下げてもらって,規制で守られていた産業だったが,もはや今ではそれはない.

何かが変わったのは1970年代後半のどこかの時点である.燃料費は上がり続けていたが,国際輸送の実質コストはあきらかに下がり始めたのだ.

いったい何が原因なのか.10年前に国際コンテナ輸送が始まった時でなく,どうして70年代後半になってそうなったのか.この問いに答えるには,これまで本書であまり目立たなかったある集団に注目しなければならない.それは,荷主である.コンテナリーゼション時代には,輸送の買い手である荷主も,貨物輸送のコスト管理について新しい考え方を学ぶ必要に迫られた.そして彼等が賢くなり,抜け目なく立ち回り,さらに一致団結するようになったとき,輸送コストは下がり始めたのである.

コンテナリゼーションの初期には荷主はコンテナの効果的な活用法をわかっておらず,混載貨物と同じ様に扱っていた.輸送管理は各工場や営業所に任され,それぞれが自分の都合で貨物を送っていたのである.会社全体で荷物をとりまとめ,40フィートコンテナをフルロードで送れば相当なコスト削減になったはずだが,工場や営業所の輸送担当者はそんなことは考えない.

http://b.pasona.co.jp/boueki/word/218/

耳が痛い.



LEGO 10241 Maersk Line Triple-E レゴ クリエイター コンテナ船 コンティ・ベルギカ 1/250<ペーパークラフト> コンテナ船の話 Liebeye コンテナモデル模擬合金海洋船貨物船ボートコンテナ模型装飾品グッズおもちゃ 1:50 6色混合
http://gigazine.net/news/20140915-maersk-triple-e/

沖仲仕について

沖仲仕とは,こんな仕事だったようだ.

それでも,収入はやはり不安定だった.需要の変動が激しいという事情は変わらなかったからである.極端な例だがリバプールでは,ピーク時の需要が休閑期の二倍に達した.

それに仕事が不規則だから,勤務時間の決まっている一般労働者と付き合うのもままならない.沖仲仕の妻は,夫がいつ働くのか,その日の夕食に帰ってくるかどうかさえ知らない」と,オレゴン沖仲仕ウィリアム・ビルチャーは描いている.収入が不安定だったのは言うまでも無い.仲仕の時間給は平均的な肉体労働者の時間給よりは高かったが,それも仕事があればの話である.数日,ときには数週間もほとんど実入りが無いことは珍しくなかった.

骨の折れる重労働ではあるが,高校を出ていない若者がすぐに就ける仕事としてはペイがいい.

1950年にイギリスで行われたある調査によると,沖仲仕は平均的な肉体労働者よりも賃金が高いにも関わらず,30種類の労働の中で下から二番目の評価だった.沖仲仕を下回ったのは道路清掃人だけである.男性,女性,社会階層を問わず,誰もが沖仲仕をそう評価したという.

仲仕を雇うのはほとんどの場合船会社や倉庫会社ではなく,港湾荷役や船内荷役専門の下請け業者である.この種の業者には,船会社や倉庫会社と違って守るべき財産も評判も無い.この仕組みのおかげで,船会社は労働待遇改善の責任を免れられる.「港湾労働者のことはわれわれには分かりません.専門業者に任せていますから」と言えばいい.


なんだろう.この不思議な既視感は.まさかビルゲイツは日本のIT業界に向けてこの本を紹介したんじゃあるまいな.



こういう不安定な沖仲仕という仕事をこの世からなくしたのは,政治や労組ではなくコンテナ革命であったという.

「「ゲームアプリにおけるJASRAC徴収はクエスト周回ごと」Twitterの報告が話題に JASRACに運用方法を聞く」

http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1711/14/news125.html

これにより楽曲の使用料は抑えられるはずでしたが、その仕様にしたことをJASRACに告げると、「周回(何度もプレイする)クエストなので」と曲が流れる回数分支払うよう促されたそうです。「同じ人が同じ曲を聞くだけですよ」と食い下がるも、JASRACは「曲が流れる回数分取ります」と回答。さらに、それらとは別に使用していた1小節を超えた分を1曲として換算されるなどして、その使用料は「新曲を3〜4曲作れるほど」に膨れることに。ツイート主は「JASRAC社員は身バレして一生世間から嫌われろ」「JASRACは巨悪だと思ってるしマジで嫌い」など、JASRACを強く批判しています。

基本無料のゲームの場合、最大5.3円(コンテンツが再生できる期間で変動)がダウンロード数(リセマラ※なども含まれる)に応じて支払われる仕組みになっているとのこと。

なかなかのトンデモルールだ.

コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった
だがコンテナに収めてしまえば,鉄道としては個別の品物を扱うわけではない.中に何が入っているかよりも,コンテナの寸法と重さの方がずっと重要だった.そこで鉄道は,重量だけに基づいて運賃を算出することを提案した.(中略)

ところが1931年に4ヶ月に及ぶ公聴会を開いた結果,ICC重量ベースの運賃体系は違法だと結論を下す.「コンテナは大変有用である」としながらも,「コンテナ内に納められた中でも最も高価格品の運賃を基準にしなければならない」と決定したのである.つまりコンテナ重量が10トンだとしたら,最高額の商品を10トン運ぶ運賃を請求しなければならない.こんな馬鹿げた規則が適用されたせいで,コンテナ輸送にコスト削減効果はほとんど期待できなくなった.

JASRACは100年前の米国ICCなみってことかな.

*1:コンテナといっても,こういうコンテナではなく,輸送用の40ftコンテナとかの話.
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この国際規格一つ決めるのでも一悶着あるんだわ.たかが金属製の箱なのに.

*2:少し前にビル・ゲイツのお勧め本として紹介されて話題になっていたのは知ってたのだが. http://narumi.blog.jp/archives/1682191.html

*3:原題も「THE BOX」なのよな.

*4:https://togetter.com/li/1255866

*5:たとえば全長300m〜400m.

*6:たとえば全長130mで1万トン級のリバティ船など. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%86%E3%82%A3%E8%88%B9

*7:過渡期には混載船やタンカーの甲板に少数のコンテナを載せるようにした改造船などもあった.だが,それでは非効率ということで,今のような専用船が急速に普及して混載船を時代遅れの物にした.

*8:クレーンは陸の側についてる場合もあるし,船の場合もある.初期のコンテナ船でも両方あった.しかし大きくて重いコンテナを船のクレーンで吊り下げるとバランスを崩して危ないということで,クレーンは陸側に付けるが普通になった.

*9:マルセイユでは,1947年〜57年の10年間で港湾労働者47人が作業中に死亡した.マンチェスターでは,50年にアイリッシュ海から入港した外航船の作業をしていた沖仲仕の二人に一人が怪我をし,6人に1人は入院したという記録が残っている.」
「しかも怪我をする確率は,建設業の三倍,一般製造業の八倍である.」

*10:たとえば高級腕時計とか高級酒.コンテナ導入前だったら,日本製のウォークマンなんて格好の獲物だったことだろう.

*11:まるで日本のプログラマーを見るかのようだ.

*12:まるでExcel方眼紙やフローチャートに拘るIT業界みたいだね.

*13:パナマ運河を通れる最大サイズ」の意味で「パナマックス(Panamax)」という単語も見られるようになった. http://maritime-connector.com/wiki/panamax/

*14:過渡期にはトレーラーを荷台に載せて運ぶタイプの列車もあった.だがタイヤやエンジンなどの無駄なスペースがあること,積み込みに意外と時間がかかること,いずれにせよ船に積む時は台車を外すなどの無駄があることと,その後のコンテナを二段重ねで運べる新型車両が開発されたことにより,完全に時代遅れになった.二段重ねってことは,単純に二倍の荷物を運べるって事だからね.

*15:大型のコンテナ専用船が接岸できる水深がある.大型且つ高速のクレーン(いわゆるガントリークレーン)が設置されていること,倉庫がない代わりに広いコンテナヤードがあることなどが条件.大量のトラックが出入りするため,港までの交通が整備されていることも重要だが,混載船時代と違って近くに大都市や工場があることは重視されなくなった.

*16:コンテナ自体がちょっとした金庫のようなものだから.また隅々までギッシリ詰め込んでおけば荷崩れの心配もほぼない.

*17:お役所は業務改革できない言い訳として「お役所は法的規制があるから」を使うけど,規制に従わなければならんのは民間企業でも一緒なのよな.法律を無視して良いのは犯罪組織だけだ.

*18:以前は荷揚げと荷下ろしに各一週間.複数の港を経由すると,最終目的地まで到着するだけで1ヶ月以上かかるのはザラ.
今はクレーンでコンテナ一個が1分30秒〜2分.巨大なコンテナ船も10時間かそこらで荷下ろしを完了する.時間はコストだから,それ以上時間をかけてたら価格競争に勝てなくなる.