グーグルのソフトウェア特許攻勢

http://blogs.itmedia.co.jp/kurikiyo/2006/03/post_9254.html

グーグルのソフトウェア特許攻勢はかなり強力なものがあります。(中略)漏れのない強力な出願という印象を受けました。

べつに驚くことはあるまい?

米国のザルみたいな特許審査の実状の前では,どんな企業でも防衛特許を出すのは当然だ*1IBMだろうとIntelだろうと,巨大企業なら数多くの特許を出願している.今や巨大企業の仲間入りしたGoogleなら当然だろう.*2

出願する明細書についても漏れのない強力なものとなるように,専任の弁護士がチェックくらいするだろう.裁判で争っても負けないように過去の判例も考慮して明細書を記述するのは,素人には案外難しい.

ソフトウェア特許反対論(松下の特許が無効だ云々ではなく、ソフトウェア特許制度そのものがおかしい)を主張していた人たちが結構いいたと思うのですが、そういう人たちは、この動きにどう反応するのでしょうか?グーグルだったら許しちゃうのでしょうか?

認識が甘いな.

特許ビジネスはどこへ行くのか―IT社会の落とし穴

特許ビジネスはどこへ行くのか―IT社会の落とし穴

ソフトウエア特許に反対することと,防衛特許を出すこととは別の問題だ*3.むしろ使うことのない非生産的な防衛特許を出し続けなければならないことが,ソフトウエア特許の持つ問題の一つになっている.

主に問題視されているのは特許の名に値しないものが特許として成立することで,社会全体のリスクが増大することにある.多くの場合はソフトウエア特許は取るだけで使われることはまずないが,例外的に使われることもある.たとえばレメルソン特許*4amazonのワンクリック特許などが有名だろう.

現在の法制度の元では,多くの企業はこのリスクを回避するためだけに防衛特許を出さざるを得ない.しかもその企業自身が取得した特許を行使することは滅多になく,行使すれば一般消費者の信頼を失い手痛い打撃を受ける恐れがある.

ソフトウエア特許で利益を得るのは(主に米国の)弁護士*5と故レメルソン氏のような自称個人発明家くらいのものだろう.

*1:こうなる理由の一つは給与の差らしい.弁護士に比べれば特許審査官の報酬は格段に安く,優秀な人材は皆弁護士になるので特許審査の現場には優秀な人材が残らない.まるで亡国のIT開発の現場のようだ.

*2:要するにGoogleもごく普通の一私企業であり,それ以上でも以下でもない.他の企業ならニュースにならないようなことが「Googleだから」という理由でニュースになっているだけ.

*3:銃規制の強化に賛成するからと言って,無抵抗で殺人鬼に射殺されても構わないと思っているわけではあるまい?自殺願望でもない限り,銃を向けられれば死に物狂いで抵抗するものだ.必要とあれば正当防衛で犯人を殺すことさえも厭わない.

*4:http://www.cognex.co.jp/news/lemelson.asp

*5:日本の弁護士の場合は特許裁判をやっても特別に儲かるということはないから.米国の場合は上手くすると一連の特許裁判だけで一財産築けるくらいだとか.なおEUはソフトウエア特許は原則禁止だったし,今でもソフトウエア特許には慎重な姿勢は崩していないだろう.