ソフトウェア産業の究極の振興策

http://blog.gcd.org/archives/50816826.html
それなりに物議をかもしているようなのでメモ.

ああ、この人もソフトウェアをモノと誤解している人なんだ。

ソフトウェア以外の分野、たとえばバイオや新素材などでは優れた発明・発見がビジネスに直結する。真に有効なモノ (例えば新薬や新素材) の真に有効な製造方法が発明されれば、あとは製造工場を建設するのに必要なカネがあればよい*1。だから、資金援助を行なうことが即、その産業の振興につながる。
しかしながらソフトウェアはモノではない。ソフトウェアには特殊な製造方法などなにもない。あるソフトウェアを作るのに特殊な「知的財産」が必要、などということはないのである。

まあこっちの業界の人間には常識だね.

優秀な技術者をソフトウェア販売会社に引き合わせたって意味はない。
優秀な技術者を「ビジネスの現場」に引き合わせなければならない。
つまり、優秀な技術者がその能力を存分に発揮し、その能力に見合う報酬を喜んで支払う「事業家」に引き合わせなければならない。
(中略)
日本にも、勢いのある IT ベンチャーは数多い。ところがそうしたベンチャーに入社しようと思う優秀な技術者がどれだけいるのか?ほとんど全ての IT ベンチャーは優秀な技術者を渇望している。

しかしながら、創業したばかりのITベンチャーには資金がない.「成功したら金を払うよ」と言われても,はたしてそんな口約束にのる人がどれだけいるだろう.そこで資金のないベンチャー企業が取る苦肉の策が,ストックオプションだったわけだ.

さて、机上の空論かどうかはさておき、直接金融の大きなメリットは、イノベーションを生み出す人、つまり「研究開発の人」をリワードできること。今回のユーチューブの例でも明らかなように、「アイデアを考え出した人」「製品やサービスをゼロから作り出した人」に大きな富が与えられる。
事業というのは、なんでも大きくなるには長い時間がかかるもの。多額の利益が出るころには、一番最初にタネから事業を育てた人はもう携わっていない、ということも多い。融資で事業を育て、その事業が生み出した価値を利益分配で社員に還元する方式では、すぐには商売にならない「研究開発の人」は埋もれがち。富も名声も集まるのは、過去にできたものを上手に売る「営業の人」となる傾向が強い。「研究開発の人」は、プロジェクトXよろしく敢えて発掘しないと見つからない無名の人として消えていく。*2
一方、株式市場は、将来の価値を現在におき戻してリワードを提供する「事業のタイムマシン」。未来の国からやってきて夢を与えるドラえもんよろしく、先々生み出されるであろう価値をまとめて「研究開発の人」を報い、「研究開発こそクール」という風土を生み出す。

ここ数十年の日本では、直接投資は少なく融資が中心。それと、日本から世界に躍り出る新規ビジネスが少なく営業力依存型事業が多いのは、無関係ではないだろう。
http://www.chikawatanabe.com/blog/2006/11/post_5.html

それで日本はというと,「ストックオプションは給料だから高い税金をかけます」とか,職務発明に対する「相当の対価」は政治判断で減額されるとか,最悪の判断を既にやってしまった.そのことを国民は知っている.

これでは技術者が,特にベンチャーを目指す技術者が減るのは当然と言えよう.

*1:逆に言えば,だからこそ特許で保護することが重要なのである.特許で保護されなければ,新薬や新素材の製法だけを手に入れて,巨大な資本を投じて工場を建設した方が勝者になる.ソフトウエアはそのような「工場」が存在しないし,製法も存在しないので意味がない.

*2:そもそも日本企業には発掘する気などかけらもない.むしろ全力で抹消する.