人月単価が諸悪の根元

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/b697e23a80b6602167c2f5e43ebad041

コメント欄が迷走している.

  • 日本人プログラマはインド人プログラマと比較して、かなり優秀なのでしょうか?
  • プログラマーの生産性が製造業などと較べて高いことを示すデータはあるのでしょうか?
  • いくら日本の労働市場が硬直的とはいえ、生産性が高い(と推測される)にも関わらず、

以下の部分に対する反応だと思うが,

生産性のきわめて高いプログラマなどの賃金も、製造業的な横並びになっているためだ

著者の真意はともかく,これは「生産性のきわめて高いプログラマ(やテスタや設計者)も、低いプログラマ(やテスタや設計者)も、その賃金は製造業的な横並びになっているためだ」と考えるべき部分では?「製造業と横並び」ではなく「製造業な横並び」という点がポイント.(確かに誤解を与えやすい表現だが……)

この問題は何十年も昔から言われていることで、プログラマの生産性は優に30倍以上異なるものなのです。となれば優秀なプログラマには平均レベルのプログラマの3倍の給与を払ってもお釣りが来ます。逆に安いプログラマはたとえ平均の半額でも生産性がそれ以上に低いのでコストパフォーマンスは最悪です。そうやって「安物買いの銭失い」をやってきたのが、日本の経営者の実態なのです。

人月の神話―狼人間を撃つ銀の弾はない (Professional Computing Series)

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ブログでよく出てくる、プログラマの過酷な労働条件と安い賃金は、彼らの生産性に見合った賃金が支払われないため、供給が慢性的に不足することから生じるのである。

これはどうしてプログラマの賃金が上がることで是正されないんでしょうか?

いくら日本の労働市場が硬直的とはいえ、生産性が高い(と推測される)にも関わらず、慢性的に低賃金、過酷な労働条件の職種が存在するというのはなぜなのでしょうか?

その大きな原因となっているのが、悪名高き人月単価と丸投げ主義です。*1

例えば,安プログラマを100人雇って1億で受注し、5千万が給与に支払われれば5千万の儲けです。安プログラマ150人分以上*2の仕事をこなせる天才プログラマを5人雇って同じ期間でより良い物を作っても、500万でしか受注できません。給料を三倍払えば赤字です。*3

そういった歪みは短期的には存在しても長期的には、プログラマのなり手が継続的に減少し続け、賃金水準が上がる、などして修正されないのでしょうか?

その通りです.

だからこそ,今まさに減少し続け、崩壊しているところなのですよ.*4

これはまったく体感的な意見なのですが、力のあるプログラマもハマる時にははまりますし、逆も、よくあります。

例えば,矛盾した仕様に基づいて実装したり,下手くそなプログラマが作ったスパゲティプログラムを修正する時ですね.これはどんな天才だって嵌るでしょう.下手クソなプログラマの生産性は0ではなくマイナスなのです.

日本人プログラマはインド人プログラマと比較して、かなり優秀なのでしょうか?

さて難しい質問ですね.

結局は個人の資質によるので,一概には言えないというのが答でしょう.

ただし平均レベルの話で言えば,真3K職場の日本人プログラマとエリート技術者であるインド人プログラマでは,集まってくる人材の質が違うと思われます.今の日本のプログラマに優秀な人材が集まるわけがありません.

http://d.hatena.ne.jp/zakinco/20070216#p4

自分は人月単価が諸悪の根元じゃなくて、
「日本のIT産業にかかわる経営者、労働者、投資家の全員が勉強不足だから」
という気がしています。

えーっと,経営者は経営の全てに責任があります。

そういう意味では「経営者の責任である」はほとんど常に真です.では「経営者が具体的にどんな過失をおかしたか?」という点で考えると,その答が「人月単価を止めようとしないこと」となります.なお,「経営者が勉強不足だから」は言い訳には成りません.それは知ることが可能であったし,何十年も前から指摘されていたことです.「知らなかった」はずがないのです.*5投資家も同様.

「労働者は不勉強か?」というなら,そういう人もいるでしょう.でも今現在置かれている状況で経営者が人月単価を取るかぎり,勉強する賢い労働者は彼らにとって邪魔者でしかありません.

経営者と労働者は、ちっとも品質の改善や生産性の向上ができてない、できないし、

品質の改善は可能ですよ.ただし,経営者は常にその反対の経営戦略を採っています.

ここまで書いて思いましたが、「人月単価が諸悪の根源」である場合の方が状況はマシなのかも。お役所が人月単価を止めましょうって決めれば変わりそうな気がするから。

その方が比較的マシなのは同感ですが,残念ながら難しいでしょうね.

一度崩壊した開発現場は,人月単価を止めただけでは元には戻りません.失われた人材,無駄に投資されて失われた資金と時間は二度と帰ってきません.今からでは,果たして元通りに立て直すだけの余力がこの業界にあるかどうか.

また,今の組織や発注方法,評価制度,開発者の資質,その他諸々全てが人月単価と強く結びついており,切り離すことが出来ません.切り離すためには全てを変える必要があります.既存の組織や旧態依然の価値観に凝り固まった経営者に,それが可能だとは思えません.

*1:他に多重下請け構造年功序列,横並び評価しかできない管理職,矛盾した曖昧な仕様書などもある.

*2:一人当たり安プログラマの30倍以上.5人で150人分以上.これは決して非現実的な数値ではありません.

*3:だからこそ現段階でのホワイトカラーエグゼンプションの導入には絶対に反対である.天才プログラマーに対してその生産性に見合う対価を支払えない限り,ホワイトカラーエグゼンプションは機能しないのだ.

*4:たとえばこんな感じで.
http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20070215/p4

*5:まるで居眠り運転で人をひき殺して置いて、「歩行者が見えなかった」というようなもの.「見えなかった」のではなく「見ていなかった」「死んでも構わないと思った」が正解.