懲戒請求と推定無罪の原則

先に断っておくが,私は法律には素人なので細かい間違いは多々あると思うけど,ご容赦のほどを.
http://www.heiwaboke.com/2007/10/post_1140.html
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1027159.html

うちも今日、わざわざ配達記録できたよ。
二週間を経過しても釈明されないときは、釈明すべきものがないと判断する とありました。*1
とても上から目線の文面がダラダラと、そして最後にまだ懲戒請求を続けるならしかるべきのような内容でした。
ムカツク。

どうにも困った人がいて,無知な一般市民を煽って迷惑をかけたみたいだ.

ところで,この手の法的文書を配達証明で送るのは当然と思う.そうでないと「受け取ってない」と知らぬ存ぜぬで通せば,それで終わりだから.*2

釈明=法律用語では「詳しい説明」の意味。
懲戒請求=署名活動じゃなくて、弁護士を裁判で訴えるようなものって事判ってる?

自分を裁判で訴えた相手に対して、

  • あんたが俺を訴えた訴状の内容について、この辺りの事を、もう少し、詳しく説明して。
  • あんたが言ってる事に対して、こう言う観点から反論するんで、さらに、それに対する反論が有れば、何月何日までに連絡してね。
  • 所で、念の為、確認するけど他人を訴える、って、どう言う事か、本当に判ってる?例えば、もし、あんたが、裁判で負けた場合のリスクとか。

と言う書面を出す事は、通常の裁判の手続きの一部で有って、脅迫じゃ無いと思うが。

ま、懲戒請求した相手が、常識的な相手であった事に感謝すべきだな。世の中には、自分を訴えた相手に対して、事前連絡無しに90枚の書類をファックスで送りつけるような社会人としてどうよ、って弁護士も居るんだし。

おそらく,これが正解と思う.人を訴えた以上はその根拠を示すのは当然の義務です.少しは考えてから行動しましょう.
http://d.hatena.ne.jp/blackseptember/20071012/1192206439
http://kosodate119.com/k_soboku/treebbs.cgi?kako=&all=848588


ところで,刑事裁判というのは,本来はこんな感じのもんだと思う.

  • 刑事裁判は被告が有罪か無罪かを決める作業そのもの.
  • いかなる人間にも裁判で適切な弁護を受ける権利がある.弁護士はそのために存在する.
  • 弁護士による適切な弁護がない裁判は,正当な裁判とは認められない.
  • どんな人も,たとえどれだけ大量の確実な物的証拠と目撃証言があろうとも,裁判で有罪と決まるまでは無罪*3
  • 無罪の人間があたかも有罪であるかのごとく報道することは,この原則に反する行為だ.*4

容疑者を叩くことも,弁護士の「依頼人を弁護する」という行為を批判することも筋違いだ.弁護士が十分な弁護をしなかったり,守秘義務を破って依頼人の秘密を他人に漏らしたりすれば社会的に制裁を受けるのもやむなしだが,弁護をするのは弁護士としての責任を果たしているに過ぎない.

関連:http://slashdot.jp/articles/06/12/19/1830225.shtml

追記

その約1カ月後に大阪地裁で開かれた初公判で、被告が起訴事実を否認したのに、検察側が裁判所に取り調べるよう請求した証拠すべてに同意した。
裁判官が被告の意見陳述と弁護方針の食い違いに疑念を抱き確認したが、竹内弁護士は何も意見を述べなかった。06年4月の第5回公判で竹内弁護士は被告に解任され、弁護は別の弁護士に引き継がれたが、翌年3月に懲役1年6月(求刑・懲役2年)の実刑判決が言い渡された。
同会は竹内弁護士のこうした行為について「弁護方針の検討や、被告の意見を確認しないまま初公判に臨んだと言わざるを得ない」と手抜き弁護を指摘。さらに検察側の請求証拠にすべて同意した点を「被告の防御権が損なわれた可能性は否定できず、誠実な弁護活動を行わなかった」と判断、5月12日付で「戒告」の懲戒処分にしていた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080520-00000019-mai-soci


被告と被告側弁護士の関係は,医者と患者の関係に近いかもしれない.

例えば以下のような例を考えてみる.

  1. あるところに一人の医者がいたとします.
  2. 彼の所に一人の患者が現れて治療を求めました.しかし彼は連続殺人の容疑者でした.
  3. 医者はそれを知ったうえで患者を治療しました.
  4. その後,この容疑者は裁判により有罪判決をうけ,最終的には死刑になりました.
  • 最終的に死刑になったとしてもそれは結果論であり,実は冤罪で彼が無罪を勝ち取るかもしれない.いずれにせよ有罪か無罪かを決定するのは裁判所であって,医者の仕事ではない.
  • 医者としての義務に従えば,相手が容疑者だとしても患者の治療をしなければならない.容疑者ではあっても「有罪が確定するまでは無罪」であり,無罪の人間を見殺しにすることは医者として絶対に許されない行為だ.*5
  • 治療したことを理由に,この医者が罪に問われることはない.それは彼が医者としての務めを全うしたということに過ぎない.
  • 治療を放棄した場合は,彼は医者としての責任を問われるかもしれない.
  • 治療を放棄しただけでなく,患者を手術中の事故に見せかけて殺したとすれば,この医者は殺人犯として裁かれるだろう.
  • 治療方針の最終決定権は患者自身が持つ.仮に「輸血すれば完全に直せるが,輸血しないと両足を切断する必要がある」として,この時に患者が輸血を拒否すれば「患者の意志を尊重して両足を切断する」のが医者の務めだろう.この行為は,ひょっとしたら庶民的には残虐行為に見えるかも知れないが,このことを理由に医者が罪に問われることはない.
  • 医者は患者に対して守秘義務を持ち,患者の治療に際して個人的に知り得た情報を他人に漏らすことは許されないが,TVの視聴者に対する説明責任はない.だからTVに出て治療内容を詳細にベラベラ喋りまくる医者というのは,あまり考えにくい.

今回憤りを弁護団にぶつけてる人って,「医者としての務めを放棄し,無罪の患者を見殺しにしろ」と言ってるようなものだという自覚はあるのだろうか.

http://www.yabelab.net/blog/2007/09/07-222211.php

刑事弁護には、絶対にゆるがせにしてはいけないことが一つあります。それは、被疑者・被告人の利益を守る、ということです。その一点において例外は認められません。
つまり、どんな被告人であってもその利益を守らなければいけない、ということです。
具体的に言いますと、弁護人はたとえ依頼者である被告人が黒だと確信したとしても、被告人が「自分は無実だ」と主張する以上は、弁護人の立場にとどまる限り、有罪の弁論をすることは許されないのです。

辞任というのも一つの考え方であり選択肢でありますが、辞任した場合は別の弁護士がその被告人の弁護人に就任しなければなりません。結局、誰かが被告人の無罪の弁論をしなければならないことになります。

このような弁護人の職責がいかに重要であるかは、この拙文をお読みの皆さんが無実の罪で逮捕・起訴され、マスコミはもちろん家族もあなたの有罪を信じてしまった場合のことを考えていただけると少しはおわかりになるのではないでしょうか。
自分はそんなことになるはずがない、とお考えの人も多いと思いますが、これまで冤罪に苦しんだ人たちは、逮捕される前は例外なくそう思っていたはずです。

http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2007/08/post_a7a8.html

さらにいうと、橋下弁護士が一本きちんとした懲戒申立てを行い、「俺が皆様の意見を代弁してこんな風に懲戒申し立てを行ったからもう大丈夫だ。あとは俺に任せてくれ」と一言言ってくれれば、各単位会の綱紀委員会の仕事が無駄に増える心配をしなくとも済みます(といいますか、最初からそういってくれればいいのに。)。

http://d.hatena.ne.jp/yetanother/20070810/1186745779

懲戒請求が違法とされた裁判例があることはありますが、その件と今回の件は全く異なる。懲戒請求が違法となるのは、明らかに懲戒事由が存在しないのに、それを分かっていながら懲戒請求をかけた場合。特に弁護士が不用意に相手弁護士に対して懲戒請求をかけた場合なんだ。
橋下徹のLawyer’s EYE : 光市母子殺害事件弁護団緊急報告集会出席報告(1)

(太字強調は私)
小倉先生!橋下先生は自ら懲戒請求を出されない理由を非常に明確に述べておられるような気がします!

http://blog.so-net.ne.jp/die-in/2007-08-08

さて、私は法律に関してまったくもって素人なわけだけど、とりあえず断言できるのは「自分だったらこの人に弁護を依頼しない」ということだ。別に茶髪が悪いとか、体育会系が嫌いとか、シモネタを話すのが不謹慎とか、そういった理由ではない。特に茶髪・シモネタに関しては私も人の事を言えないからな。じゃあ、なぜ頼まないかと言えば、この人には依頼者を守る気が無いからだ。
光市事件の弁護団に対して、例えば法廷戦術や論理構成において「それじゃ被告人の利益を守れないから弁護士としてダメ」という批判をするなら分かる。でも、彼の批判は、いや彼に限らず、多くのコメンテーター弁護士が光市事件の弁護団に向けている批判は、そうじゃないのだ。「無意味な弁護で裁判を長引かせ、被害者を傷つけるとは何事だ」と、いつもそんな感じだ。
つまり「被害者を傷つけてまで弁護するとは何事だ」と言ってるわけで、それって「なにがあろうと被告人の権利・利益を守る」という弁護士の基本中の基本を否定する事じゃないか。それを弁護士が言ってるって事にこそ司法の崩壊を感じざるを得ない。

http://www.yabelab.net/blog/2007/10/13-103839.php

追加.コメント全部に目を通すのはちょっとムリっぽい.

「今枝弁護士の求釈明書について」
この問題は
(1) 今枝弁護士に対する懲戒請求問題
(2) 今枝弁護士と橋下弁護士間の民事訴訟への影響
(3) 今枝弁護士に対する懲戒請求をした人に対する今枝弁護士からの将来的民事訴訟提起の問題
の三つの問題に関係します。

以下,参考になることは多いけど長いので省略.

何故「弁護士を裁判で訴えるようなもの」なのに裁判所からじゃなく被告から何か送られてくるのでしょう?』

については,

本来の裁判なら「釈明権」は裁判所にあり、原告・被告は、「求釈明の申立」により、裁判所の「釈明権の発動」を求めるわけですよね。多分、綱紀委員会も同じ構造で、今回の求釈明書も、被申立人が、この点について綱紀委員会から求釈明して下さいって、書面にして提出したものを、「被申立人からこういう書面が出ています。釈明に答えますか?」という趣旨で、申立人に郵送されたと考えられます。
http://www.yabelab.net/blog/2007/10/02-224559.php#c89828

だそうです.*6

*1:「2週間以内に代金が振り込まれなかった場合、自動的にキャンセルされたものと見なしますのであらかじめご了承下さい」みたいなもんでしょ?

*2:ブラック企業に対する「退職届」でさえも配達証明とかで送った方が良い.実生活で役に立たない方がいいTIPSの一つだね.orz

*3:推定無罪の原則」でいいのかな.法律の素人でも一度は聞いたことのある超有名な大原則.

*4:バラエティー番組では良くやってるけど,奴らは「民主主義の敵」だと思う.たとえばライブドア事件でのマスコミの報道が正にこれだった.

*5:相手が既に死刑が確定していた場合でさえも,それでも普通は治療すると思うけど.

*6:ここまで来ると,素人の出る幕じゃないと思います.もし私がこのレベルの法的手続きを行うならば,やはり弁護士に依頼することになるでしょう.