「派遣切り批判をあえて批判する」を批判する

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20081212/119407/
またこのネタか.

「雇用流動性と解雇規制は無関係」

経営者も管理職も合理的に動くのではない.利己的に動くのだ.

  • 雇用流動性が低いことがIT業界にとって問題なのは事実.
  • 雇用流動性が高くなるべきだというのには賛成.
  • 年功序列と新卒偏重を止めるのは賛成.
  • 現段階で解雇規制を撤廃するのは絶対に反対.まず間違いなく経営者の都合の良いように利用されるだけ.たとえば「10年間泥のように働く」ことを強要され,10年間酷使した直後に解雇してポイッと捨てるとか.
  • 年功序列を廃止しない限り新卒偏重は無くならない.
  • パフォーマンスに見合う対価を支払うことが可能ならば,年功序列はとっくの昔に廃止されていたはずだ.でも今もまだ廃止されてないよね.
  • 雇用流動性が上がっているならば,有能な人ならば並の技術者の倍の給料を払ってでもスカウトするはずだよね.でもそんなことをしている会社がどこにある?
  • まず廃止すべきは既に崩壊している年功序列賃金であって,雇用規制の撤廃はお門違いだ.
http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20080603/p1

まずは年功序列賃金の廃止と新卒偏重の撤廃.話はそれからだ.


まずだれが書いているかチェック

テレビ朝日系の『サンデープロジェクト』、BS日テレ『財部ビジネス研究所』などに出演。

マスコミも非正規雇用を使い捨てにしている産業の一つなんだが.
ということはマスコミ批判を展開するのかな?まさかね.

だがマスメディアが安っぽい正義感を振りかざして、 “派遣切り批判”を扇情的に繰り返す姿こそ批判されてしかるべきだ。

同じ穴の狢である彼らに,正義感などありはしないよ.せいぜい同情しているフリをして,自分たちへの批判をそらそうとするだけ.

そういえば自動車業界からも莫大な宣伝広告費がマスコミに流れてるわけだけど,「この不況のおり,宣伝を全部やめて,その金を雇用の維持に回した方が良い」と主張したマスコミはいただろうか?

そして,もしそうなったとしても,彼らマスコミは,自分たちの番組制作を行っている下請けや非正規雇用の雇用の維持に務めるだろうか?*1

当時「リストラ」と呼ばれた中身は「希望退職の募集」だ。倒産の危機が目前に迫っても、日本の企業は割増し退職金を払い、人件費を急増させるというプロセスを経なければ、雇用調整ができなかった。

日本の年功序列賃金は若い頃の給与を低く抑える代償として,長期の安定雇用と中高年への高い報酬を約束している.「若い時には安い給与で扱き使い中高年になったら切り捨てる」ということを認めたら,経営者が一方的に特をするだけなんだがね.

そういう意味では「割増退職金によって人件費は急騰しない」.本来なら年功序列賃金の制度中で今後負担すべきであろう人件費の一部を,割増退職金として上乗せしているだけなのだから.割増退職金を廃止するのであれば年功序列賃金をも廃止し,主に(特に有能な)若年労働者の給与を上げる必要がある.さて,トヨタはそれをやっただろうか?

本来ならここで、日本の労働法制を真正面から見据えて、企業の解雇権と解雇される労働者の権利を守るための法改正や社会的なセーフティネットの構築をしなければならなかった。だがこれを素通りして、派遣をめぐる規制緩和だけが推し進められたところに問題の根があったのだろう。

そうしたのは経団連の要望があったからでしょ.加害者が被害者ぶるのはいかがなものか.

いざという時に雇用調整に踏み込むことは、企業として当然の経営判断だ。
ところが日本の労働法制はそれを簡単には許さない。

役員報酬のカットや管理職の降格は可能なはずだけど.まずはそれをやったのか.

もし私がトヨタ自動車の経営者だったら、日本における雇用創出の責任などさっさと放り出し、生産拠点を海外シフトするだろう。

そして海外拠点で非人道的な処遇に対する批判に正面から晒される?海外へ出て行けば,日本の法律ではなくあちらの法律に準拠しなければならないんだよ.もちろん日本政府や日本のマスコミが守ってくれることもなくなる.

http://www.green.dti.ne.jp/protest_toyota/
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a162059.htm
http://www.mynewsjapan.com/reports/597
さて話半分としても,トヨタが日本から抜け出すのは,そう簡単ではなさそうだ.*2

厳しい生産現場で真面目に働いてきた自動車業界の派遣社員たちに直接給付をしたらいいではないか。1億2000万人に現金を配るわけではない。2〜3万人に当面の生活費として収入の8割程度を一定期間、直接給付すればいい。

たとえばIT業界でも首切りは普通に進められてるんだが,なにゆえ自動車業界『だけ』を特別扱いせねばならんのだ?*3 *4

トヨタからいくら金もらって書いてるの?」と疑われてもしかたあるまい.

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20081212/119407/

  • 派遣切りによる雇用調整は本質的には正しい。ただ、本来なら不安定だからこそ高収入であるべきなのに、賃金を叩き買う手法としてのみ派遣労働が機能していた。ここの矛盾が批判されてるのに、現実逃避。
  • はいはい、海外行く行く詐欺ですね。じゃあなんで経団連は移民政策に積極的なの?
  • 日本の企業にとって日本が一番。海外に出たら法律守らないといけないし、組合も強力。すぐに殺せる"安い"派遣なんか海外にいないよ。
  • 寮などの住み込み派遣について法令で制限が無いのは大問題だとは思う。
  • 切られた労働者に同情するメディアは多々あったが「派遣切り批判」をしているメディアってどこ?

関連

今回の移民問題に関する私の感想は「法律で決められていることと、何が正しいかという事は別物」という感じですが、自分のようにアメリカ(の青い州)で育った人にとっては普通の考え方なのではないかと(自分では)思っています。

私が行った小・中・高では"Just because it's the law doesn't make it right."ということを生徒に叩き込んでいました。それこそアメリカの民主主義の大前提になる思想、という感じでです。歴史のクラスの一大テーマはアメリカの憲法や法律の時代に伴う変化とか、州による法律の違いです。中学生には「アラバマ物語」やケネディー大統領が書いたProfiles in Courage、高校生にはオーウェルを必ず読まさせますが、その教訓は「お上の言う事を鵜呑みにしないで、自分で考えよう」です。その延長でアメリカ政府の過去の人種差別に基づいた政策(アジア人やメキシコ人の排斥、日系人の強制収容)とかを考えてみると、今の移民問題は(シリコンバレーの外では)少数民族の私にとっては他人事ではないような気がします。(だからといってデモに行くわけでもないのですが。。。)

http://www.chikawatanabe.com/blog/2006/04/post_5.html

派遣切りに生活保護 広島「マツダ」の13人が申請

  • 減産や派遣社員の削減を進めている自動車メーカー「マツダ」(広島県府中町)や関連会社から派遣契約を打ち切られた13人が、広島市生活保護の申請をしていることが13日、分かった。市はすでに7人に対して生活保護の支給を決定し、残る6人については審査中という。
  • このうち、マツダや関連会社の派遣社員の相談は16件で、「雇用保険だけでは今後の生活のめどがたたない」「寮の退寮期限が迫っているが行くあてがない」などと訴えているという。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081213-00000115-san-soci

*1:「そこで各局は、番組制作費にメスを入れ始めた。フジの豊田皓社長は、「上期は番組制作費を1割減らした。今後3年間で設備投資額を100億円圧縮する」と引き締めにかかっている。」 http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20081127/p2

*2:そもそもそうなると英語も満足に話せない管理職や役員は全員解雇だよね.さて,一体何割くらいが残るのか見物だな.

*3:自動車業界と違ってIT業界は中小零細多重下請け偽装請負偽装管理職etcが多いし,整理解雇なんてあまりにも当たり前すぎるのでニュースでもなんでもないだけなんだよね.

*4:こういう発言が出るなんて,自称とはいえ到底エコノミストだとは思えない.その他の労働者と区別して自動車業界の派遣のみを救済する法的根拠なんて一体どこにあるのかと.議論が紛糾して最終的には白紙撤回されるのは必至.