「日本半導体敗戦」 雑感
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- http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2229
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- http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2553
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ハードウエアの話なのに,ソフトウエアでも既視感ありまくり.
なんなんだよ,日本って国は.
その半導体に関する技術には,少なくとも次の三階層ある.1、要素技術,2,インテグレーション技術,及び3,生産技術である.
このような技術の階層は,世の中一般にはほとんど知られてない.社会科学者になって,半導体産業を研究し始めた時,このことがわからなくて,大いに悩み苦しんだ.それは,社会科学の先人たちが書いた半導体産業に関する研究論文が,二,三の例外を除き,まったく読むに耐えない物だったからだ.つまり「わかっちゃいない」論文だらけなのだ.
社会科学者じゃないけど,良くあること.
憂鬱なプログラマのためのオブジェクト指向開発講座 (DDJ Selection)
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自称技術本でこの惨状だから,社会科学者の書く論文など見たくもない.
社会科学者たち(だけでなく半導体業界外の方)が外から半導体業界を見ると,量産工場に並んでいる装置しか見えないようだ.特に,インテグレーション技術についてまったくなにも見えてないし理解されてない.その結果,見えている物だけを使って理屈をこねようとするから,業界関係社から見ると「なんだ,こりゃ?」と読むに耐えない論文になるのである.
例えば私が定義した3階層の技術について,「それは君,大発見だ」と言った社会科学の教授がいた.このような技術階層は,業界関係社なら誰でも知っていることである.こんなことも知らずに,これまでどうやって半導体産業を研究してきたのかと愕然とする思いであった.
ソフトウエアの人間でも,上記の3階層くらいは予想の範囲内です.むしろ無いと考える方がおかしい.知らない専門家がいたら,同じく愕然とするでしょう.
「社会学者たち(だけでなくプログラマー以外の方,管理職含む)の人間がソフトウエア業界を見ると,ディスプレイに表示されているUIしか見えないようだ.特に,プログラミングについてまったくなにも見えてないし理解されてない.その結果,見えている物だけを使って理屈をこねようとするから,業界関係社から見ると「なんだ,こりゃ?」と読むに耐えない文章になるのである.」
また「半導体なんて装置を買って並べれば誰でもできる」と断言する人々にも多数であった.社会科学者だけでなく,政府関係者やマスコミの方からも同じ事を言われた.これが間違っていることを示すために,「半導体は装置を買って並べただけではできない」ことを証明する論文を書くことにもなった.
これは笑い事ではすまされない.「わかっちゃいない」社会科学の論文や,「半導体なんて装置を買えば誰でもできる」ことが書いてある本や記事が,経済産業省などの官僚が政策立案する際の参考にされていたりするからである.その結果,まったく日本半導体の実情に合わないようなコンソーシアムや国家プロジェクトができてしまう.さらに,ここに多額の税金が投入される.まったく笑い事ではない.
えーっと,ソフトウエア業界の方には説明は不要かと存じます.
なぜか,そっくりです.瓜二つです.
- 「シグマ計画」 http://www.kojima-cci.or.jp/fuji/mybooks/okite/okite.9.1.html
- 「シグマはどこへ消えた?」 http://www.yamdas.org/column/technique/sigma.html
- 【まちがいさがし】文科省「プログラミング教育に関する調査研究」が爆笑必須(→現在非公開): http://togetter.com/li/834215
「設計のやり方でコストに差が出るだって?そんなことはあり得ない.設計なんて誰がやったって同じだ.デバイスのコストに差が出ることはあり得ない」という信じられない解答を耳にした.」
(中略)
「設計には大きく分けて4段階ある.まず,第一段階のアーキテクチャ設計.ここで,うまい設計者とそうでないのとでは,デバイスのコストに10倍の差が出る.次に,第二及び第3段階の論理設計及び回路設計.ここでは,うまい設計者とそうでないのとでは2〜3倍の差が出る.最後はレイアウト設計.ここでは,上手い設計者とそうでないのとでは,数十%の差が出る.」
「設計のやり方でデバイスのコストに差が出ないのか?」と質問して,「出る」と即答できない設計関係者,および「差が出るはずがない」と断言した設計関係者は,一体どのような設計を行っているのだろうか.
ではどうしたらいいのか?すべての技術者が,全体を俯瞰した上で,自身の専門分野を最適化できるようにすべきである.具体的に言えば,技術者は一度は,自分でトランジスタの工程フローを書き,自分で上から下までプロセスをやってみて,トランジスタを動かすという経験を積むべきではないか?また,優秀な技術者を無闇に管理職にしない工夫が必要だ.
ソフトウエアでいうなら,普通は大学などの専門教育でこういうことをやります.独学でも不可能ではないけど,難易度はずっと高くなります.しかし,業界が求めているのは「学歴不問・未経験者歓迎」という恐ろしい事実.
管理職云々についてはお寒い限りです.
他にも
- 日本だけが装置を特注する傾向があるという.(中略)したがって,高性能を追求するための特注仕様と併せて,諸外国よりも30〜50%も高い装置を,日本半導体メーカーは購入している.*1
- 日本半導体メーカーでは,開発部隊と量産部隊が,組織的に明確に分離されている.*2
- 研究部,開発部,量産部の間に士農工商がある.*3
- 一部分だけを切り出して,単純な比較をして,能力が高いから,同じような装置だから,といって簡単に置き換えられるものではない.
- なんということだ,DRAMの工程フローは,数学的帰納法で作られているのだ.微細化の進展,新構造や新材料の登場により,工程が増えることはあっても,減ることがない!*4
- つまり,技術開発があまり得意ではなく,さしたる功績も上げられない者が,加速度的に難しさを増した技術開発を行わなければならなくなっている!
- そして,マネージャーおよび経営者は,最低でもビジネススクールでMBAまたはMOTを学ぶべきだ.(中略)それと同様に,プロのマネージャー,プロの経営者になるのであれば,経営学を勉強することは必要不可欠の素養である.
- 日本半導体メーカーは,そもそも,収益率が低いのである.そのため,大きな不況が来れば,必ず,赤字になるのである.
- このような過剰性能,過剰品質の製品を,過剰技術を用いて作っているがゆえに,巨額の赤字を計上し,リストラにより多数の社員をクビにするのだとしたら,そのような技術及び製品は企業活動にとって「悪」としか言いようがない.
技術的には多少の違いはあれど,イヤと言うほどソックリです.本当に.泣きたくなるほど.
日本ソフトウエア業界は,要素技術に関しては,とっくの昔に完敗しました.SI業界が「敗戦」しないのは,戦うべき敵が同じく国内の非効率で低利益率のSI業界だからです.横並びのSIビジネスは,負けない代わりにブラック企業を生み出し,多くの人間を犠牲にしてきました.はたして,どちらが幸せだったのでしょうか.
*1:ソフトウエアにおいても日本の顧客は標準機能にないものを要求することが少なからずある.日本語表示くらいならまだしも,そうでない些細な部分にまで様々な拡張仕様を要求しはじめると,その部分のカスタマイズ工数が爆発的に増えるものなのだ.
*2:量産技術に関しては文字通り『ビルド』だからいいけど,開発と保守が明確に区別され,お互いに何をやってるかも分かってない例が多い.ひどい場合には「開発」メンバーであるにもかかわらず,「プログラミング」や「保守」の技術や知識を持っていないことさえある!
*3:1次受け,2次受け....5次受け,6次受けや,営業,上流工程(業務分析/高級伝書鳩),下流工程(実際の開発),テスト/デバッグ,保守/運用など.よって非常に生産性が低く,品質も悪くなる.
*4:その結果,生産コストは単調増加する.工程を増やすよりも減らす方が何十倍も難しく,より高いスキルが必要となるのはソースコードも同じ.