「雇用流動化の最大の障害は「解雇規制」ではない」

http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51488858.html
タイトルだけ見て,「あの池田信夫でもたまには良いことを書くこともあるのか」と思ったら全然違った.コレはヒドイ.

しかしある意味でいつもの池田信夫なので逆に安心もした.

もっと重要なのは昔ながらの「企業は一家」という労働倫理を変えることである。

これはとっくに変わってる.せいぜい人事部の建前として存在しているに過ぎない.

解雇を困難にしているのは、この朝日新聞の記事のように、退職についての協議を「退職の強要」と書き、悪質な経営陣が気の毒なパイロットに退職を迫っている、というストーリーに仕立てるマスコミである。

あんまり関係ない.そもそもJALは倒産企業で例外だし,パイロットも高スキル人材で例外だ.倒産企業が解雇するのはさほど難しくない.

雇用流動性の話をする時は,むしろ黒字企業についての方が重要.今の日本だと利益を上げている企業にいる「ゆとり管理職」や「COBOLer」などは解雇できないが,それが経営の重荷になったりする.そしてそのしわ寄せが,有能な人材や新卒に一方的に押しつけられている.降格,及び給与削減ならかのうだけど,それさえも機能不全に陥っている.また今でもブラック企業なら不当解雇なんて日常茶飯事だけど,それは解雇規制とはなんの関係もないし,それによって流動性が増すこともない.

終身雇用にせよ年功序列にせよ、法律で決まっているわけではない。むしろ暗黙の雇用慣行で決まっているがゆえに変えにくいのだ。

これも違う.雇用慣行というよりは日本企業の仕組みや人事制度に組み込まれていると見るべき.人事部の利権や中高年管理職の給与,無能な経営者の揺り籠であるため,そこから甘い汁を吸っている経営患部や労働組合が反対するはずがないのだ.....会社が倒産するまでは.*1

さらには年功序列賃金や退職金や保険や年金,住宅ローンや保育所,敷金/礼金,連帯保証人,その他諸々の制度が終身雇用のフルタイムワーカーを中心に制度設計されているので,これを変更しない限りは雇用流動化は上がらない.*2 流動化とは貧乏くじを若者に押しつけることではないのだぞ.*3

パイロットの年収は2000万円、クビになっても毎月30万円の年金がもらえることは書かない。JALは一度つぶれた会社であり、経営再建に失敗したら清算され、すべての労働者が職を失うのだが、それも書かない。

給与の金額と解雇規制の話はまったく関係がない.スキルに見合う対価が支払われているなら,2千万だろうと1億だろうと関係ないし,*4見合わなければ200万でも高すぎる.新卒初任給レベルでも高すぎるエライ人なども珍しくない.

年金や退職金についても,倒産企業の年金/退職金などいつ紙切れになるか分からんよ.というより,このままだと遅かれ早かれ年金にもメスが入るのは避けられない.

要するに最大の問題は法律ではなく、経済への影響を考えないで「一段階論理の正義」を振り回す裁判所と、それに便乗して正義の味方を演じるマスコミ(特に朝日・毎日・NHK)なのだ。このため大企業は、マスコミの攻撃を恐れて雇用調整をぎりぎりまで先送りする。その結果、経営が破綻したのがJALである。

そういう側面も全くないとは言わないけど,斜め上すぎるトンデモ解釈.「一因」なら賛成するが「最大の問題」と言ってしまうとウソになる.

経営者も管理職も合理的に動くのではない.利己的に動くのだ.*2 *3

  • 雇用流動性が低いことがIT業界にとって問題なのは事実.
  • 雇用流動性が高くなるべきだというのには賛成.
  • 年功序列と新卒偏重を止めるのは賛成.
  • 現段階で解雇規制を撤廃するのは絶対に反対.まず間違いなく経営者の都合の良いように利用されるだけ.たとえば「10年間泥のように働く」ことを強要され,10年間酷使した直後に解雇してポイッと捨てるとか.
  • 年功序列を廃止しない限り新卒偏重は無くならない.-4
  • パフォーマンスに見合う対価を支払うことが可能ならば,年功序列はとっくの昔に廃止されていたはずだ.でも今もまだ廃止されてないよね.
  • 雇用流動性が上がっているならば,有能な人ならば並の技術者の倍の給料を払ってでもスカウトするはずだよね.でもそんなことをしている会社がどこにある?
  • まず廃止すべきは既に崩壊している年功序列賃金であって,雇用規制の撤廃はお門違いだ.
http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20080603/p1

日本の雇用流動性の低さというのは解雇規制によって生まれたものではなくて,年功序列賃金,長期の住宅ローン,人事部中心で人を見ない採用過程,杜撰な評価制度,過度な新卒偏重,貧弱なセーフティーネット,はては礼金や保証人などの住宅事情にまで深く関係する.その中で解雇規制だけを撤廃しても,流動性の高い社会が一夜にして実現したりはしないのだ.

http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20090720/p3


解雇規制だけをどれだけ緩和しても,企業人事部が新卒偏重やスキルを見ない採用方式を改めるとは考えにくい.彼らの存在そのものが,古い日本企業の悪習に根ざしているからだ.同一労働同一賃金,現場担当者による高スキル人材の採用が一般化すれば,人事部の大幅縮小,または解体は避けられない.人事部なんて特にスキルをもってない「潰しの効かない高給人材」の巣窟なんだから,人事部が日本企業の改革に必死で抵抗するのも当然だろう.

そういえば,こういうニュースの時に人事部長が解雇されたって話はあまり聞かないね.何故だろう?JALにしてみればパイロットや整備士は必要だが,それに比べれば人事部なんて全くの無用の長物だよ.


そもそもJALパイロットの一件については,評価の仕方に大きな問題がある.

日航にはパイロット(機長と副操縦士)が約2500人いる。日航が募集している「希望退職者」はパイロットについては年齢などを問わないとしているが、同社関係者によると、退職を求められている約370人は50代後半の機長や50歳以上の副操縦士、病気で欠勤した日数が多い人(今年度の病欠日数が41日以上など)らに限られている。
(中略)

http://www.asahi.com/national/update/1007/TKY201010070564.html

副操縦士の場合、今年に入ってけがで数カ月休んだ。これが日航の整理解雇の人選基準案にある「(今年度)病気欠勤合計41日以上の者」にひっかかった。けがは完治し、9月から通常業務をこなしていた。けがの時以外に長期の休みを取ったことはない。それなのに、今月上旬の面談で、会社から「あなたは今後の会社業務に貢献できない」と言われた。

 パイロットは体調が少しでもすぐれないと、事故を防ぐためにフライトを取りやめ、「病気欠勤」とするのが通例だ。風邪薬を飲んだだけでも休む。このルールは、自己申告で保たれている。別の副操縦士(39)は、解雇の人選基準案にある「過去2年5カ月で合計81日以上の病気欠勤」にあたるとして対象になった。風邪や、長時間の飛行で腰を痛めて長く休んだことがあった。「こんなやり方では、今後は風邪をひいても誰も休まなくなり、安全に問題が出るだろう」と話す。
(中略)
個々の能力で甲乙がつけがたければ、年齢や病欠日数など、客観的な基準で線引きせざるを得ない

http://www.asahi.com/national/update/1008/TKY201010070571.html

年齢と病欠日数でしか評価できない会社って,まるでブラックIT企業みたいだ.「年齢や病欠日数」を「客観的な基準」とするなら,性別や国籍,人種や血液型のような「客観的な基準」で線引きするのも肯定するんですかね?客観的であることは線引きの必要条件でも十分条件でもないよ.

  • id:Ayas 病欠を問題視する航空会社・・怖くて乗れない。
  • id:rajendra 病欠が多いと解雇を迫られる。じゃあコンディション不調は隠しておいたほうがいいな。
  • id:goldhead "希望退職に応じる場合はラストフライトを設定します"<そのラストフライトには乗りたくないな、なんとなく。
  • id:kamo_negitoro ちょっと混乱しているのですが,病欠日数の多寡というのは一般的に解雇の理由にしていいんでしたっけ?
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.asahi.com/national/update/1007/TKY201010070564.html

仮病や二日酔いや徹夜して寝不足みたいな本人に責任のあるものならともかく,病欠日数を評価基準にいれちゃうと,今後は咳やくしゃみ
や発熱,下痢や虫歯や捻挫やぎっくり腰くらいならムリして乗っちゃうパイロットが続出するんじゃないかな.安全性を犠牲にする倒産会社の航空機に乗りたがる人がどれだけいる?自分なら半額でも乗りたくないね.*5

http://b.hatena.ne.jp/entry/ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51488858.html

  • id:mohno 「リストラ」といわれる希望退職は、法的には自己都合退職であり」←それはブラック企業の話。
  • id:FTTH …… 問題視しているのはあくまで解雇規制で、それが残る原因としてマスコミを上げているんだから、タイトルとか全体の論理構成が明らかにおかしい。池田信夫クオリティ(笑)
  • id:takuyakoba 整理解雇を忌避し、雇調金や税金投入してゾンビ企業を延命させることは、当該企業社員以外には迷惑そのものなのだが。。。やっぱり情緒論はウケが良いのかな?
  • id:iroiroattena 経営が傾いてるんだから、経営者が悪いに決まってんだろ。。。高給だって経営者が決めてる。社員やマスコミが決められる訳ないだろ。さんざ解雇規制叫んでおいて、今更、何を言ってんだ。マスゴミ的手法語るに落ちる
  • id:Shuns マスコミは視聴者の目をひくことだけを考えて行動するあたりどこぞの経済評論家のようですな。少し前の信夫「雇用流動化のために解雇規制撤廃を」今の信夫「雇用流動化の最大の問題は解雇規制ではない」もはや様式美
  • id:takagyi 外資系職員は同じ職能を持つ職員同士のネットワークが強いから解雇されても互いに情報交換をしている。だから流動性が高い。日本企業の職員は企業内で完結している。欧州のように職能別労働組合を組織するのがいい。

必ずしも賛成できないけど,一理ある.

そういえばJALは内部的にだけど,職能別労働組合に近い組合をもっているんだっけ?パイロットとスチュワーデスと事務職が同じ組合に所属する方がおかしいしね.

*1:いや「倒産した後も」か.JALのように

*2:http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20100619/p2

*3:http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20081220/p1

*4:JALパイロットについてはもう少し下げたというニュースも見たな.こんなことも調べてない「学者」のいう意見など,信用して良いものだろうか. http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100727/biz1007271215009-n1.htm
「国際的に低い金額」で,かつ将来性がなくていつ解雇されるか分からないとなると,若手を中心とした外国航空会社への転職は増えそうだな.今は不景気だからいいけど,長期的には危険要因だと思う.

*5:だんだん雪印食中毒事件みたいになってきたなあ.今後はJALが「危険だから乗りたくない航空会社」の代名詞となっていくのだろうか.