「イスラームの性差別」?

イスラーム社会というと、一夫多妻制で、女性がヴェールをかぶり、行動が制限され、学校にも行かせてもらえないといったイメージを持つ人も多いでしょう。そうした事象がないわけではありませんが、すべてのイスラーム社会がそうなのではありません。また、よく考えてみると、日本社会の性差別と大して変わらないのはないかと思われるのです。

今回はイスラームの一夫多妻制、ヴェール、女性の就学といった問題を入り口にします。そして、それを日本と対照させながら考えてみましょう。案外、共通の問題点が多いのです。

いやそもそも差別なんてしてないみたいだけど.むしろ腫れ物にでも触るように,大切に扱ってる雰囲気.

先日読んだコレを参考にしてみるとしよう.
http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20150211/p1

一夫多妻制

まずは一夫多妻制です。クルアーンの4章3節によれば、ひとりの男性は4人まで妻を持つことが許されています。

これについては,

開祖ムハンマドが生きていた時代は無制限な多妻制で,女性の地位が極めて低かったそうです.ムハンマドは妻を四人に制限し,妻には様々な権利を与え,男性には規律をもたらしたといいます.また,男性は戦乱で命を落とすことが多く,人数が少なかったので,結婚できない女性を増やさないためにも四人まで結婚できるようにしたという説明もよく聞きます.

とある.つまり女性の立場を強くし,その権利を保護したのがイスラームの教えだったわけだ.

また,あくまで「最大で4人まで認められている」だけであって,「4人の妻を持たなければならない」と言ってるわけではない.

  1. イスラムでは認められていても法律で認めてない国であれば一夫多妻は許可されない.たとえば日本の法律は一夫一婦制なので,日本に住んでいるイスラームも一夫一婦制である.
  2. UAEをはじめ認められている国でさえも,「ほとんどの男性の妻は一人だけ」

多くの男性がひとりしか妻を持たない理由はいろいろと考えられます.

まず,複数の妻を持つ場合はすべて平等に扱わないといけないという教えに従わなければなりませんが,現実問題としてそれは非常に難しいので,トラブルを避けるため妻をひとりにする,という理由です.

次に,UAEでは婚約パーティーや結婚パーティに関する費用から新居の用意,日々の生活費用まで全て男性が負担することになっているので,妻が増えると金銭的負担が増大するという理由があります.近年は子供の教育にお金をかける夫婦が増えてきたので,妻が増えると子供が増えて出費が嵩む恐れもあります.
(中略)
首長一族の男性は例外で,妻を何人も抱える場合があります.しかし都市部の一般人について私が知っている範囲では,「妻が二人」という人はときどきいますが,「妻が三人か四人」という人はいません.「妻が二人」の場合,たいていひとりはUAE人,もうひとりは非UAE人です.「二人目の妻がUAE人の場合,離婚経験者であることが多い」とよく聞きます.

服装

次に、ヴェールの問題。体の線を見せず、頭にかぶるスカーフの総称で、チャードル、ブルカ、ヒジャーブなど社会によって呼称が異なります。もともとは上流階級の女性の、いわばステータスシンボルであったものが、おそらくはそのことゆえに、多くのイスラーム女性のスタンダードな服装となっていきました。社会によって、髪の毛だけを隠すのか、目以外をすべて隠すのかなどといった違いも存在します。


ステータスシンボルとは関係無く,イスラームの教えに従ったものだそうだ.

イスラームでは「女性は美しい所は人に見せぬよう,胸には覆いを被せるよう」に命じています.これは男性が不必要に女性に興味を持たないようにし,女性の身を守るためとされています.

その結果

  • 手首や足首まで覆う伝統衣装(アバーヤ)を着る.(覆いさえすればジャージのような長袖長ズボン,着物などでも可のよう.)
  • 髪の毛を隠す.(人によっては手の平も隠す.いずれも「女性の魅力的な部分」だから.)
  • 唇を隠す.(唇も「女性の魅力的な部分」の一つだから.)
  • 人によってはヴェールで顔も完全に隠す.

という衣装を着ることになるわけです.顔を隠すのはさすがに日本では珍しいにせよ,手首や足首まで覆うのは,日本の伝統衣装「着物」でも同じですね.「角隠し」のように頭を隠す習慣も無いわけではありません.一番大きな違いは,イスラムにおいてはそのような伝統が今も生き残っていることでしょう.*1 *2

もっともアラブ諸国の砂漠地帯ともなると,この衣装によって強い太陽光を遮断できるので,下手に肌をさらすより快適であるとは良く聞く話です.*3


またアバーヤも遠目に見ただけでは黒一色に見えますが,実は彼女たちなりの拘りがこめられているそうです.

アバーヤには既製品もありますが,ほとんどのUAE女性はアバーヤを専門店にてオーダーメードで仕立てています.自分の好きな形や模様を職人に伝え,オリジナルアバーヤを作るのです.模様無しのベーシックなアバーヤを好む女性も,そのデザインや生地の質などに拘りがあります.

模様がある場合は,きらきら光るラインストーンをちりばめたもの,刺繍をあしらったもの,生地の上から絵を描いたもの,それらのコンビネーションなど,多種多様です.大学の女子セクションは美しいアバーヤの見本市のようで,私はいつも学生達のアバーヤ鑑賞を楽しんでいます.

教育

最後に就学の問題です。女性が学校に行くことさえ許されない。これに立ち向かったマララ・ユサフザイさんがノーベル平和賞を受賞したのは、みなさんよくご存じのとおりです。ですが、女性が学校にすら行けない社会というのは、イスラームの中でもかなり珍しく、決して多数派ではありません。

すくなくともドバイにおいては,女性の就学率は高いようだ.

UAEでは義務教育である小学校の進学率は100%です.イスラームの「教徒は皆知識を得るべき」という教えも徹底されており,女性の大学進学率は2000年代以降7割を超えています.男性は中学や高校を卒業した後に士官学校や警察学校に行く人が多いため,大学進学率は女性の方がずっと高いのです.

教育を受けてないとすれば,それはイスラームの教えのせいでは無く他の理由,例えば貧困やテロリズムなどのためなどだろう.


女性の社会進出においても意外と高いようだ.

預言者ムハンマドの最初の妻ハディージャも有能な商人でした.アラビア半島の女性は石油が発見される前の貧しい頃,井戸から水を汲んできたり家畜の世話をしたりして外でも働いてきたんですよ」と教えられました.

職に就いている女性はとても多く,UAEの公務員は半分以上が女性です.ただし「女性は見知らぬ男性と知り合わない方が良い」というイスラームの教えに従ってUAE女性は不特定多数の男性と接する接客業やサービス業に就くことは希なので,職業は限られています.たとえばUAE人女性で客室乗務員や旅行の添乗員になるひとはほとんどいません.

女性の警察官や軍人もいます.軍人のUAE人女性では自分の目で見たことはありませんが,本に載っていた写真で知りました.驚いてアスマ教授に「UAE人女性の軍人もいるんですね」と話すと,「歴史上,勇敢に戦ったイスラーム女性教徒は何人もいます.最近ではドバイ首長国の初代首長であるラーシド初代首長の母親が,1970年台に部族間で戦闘が起こったとき率先して軍を率いましたよ」と教えてくれました.海外の大学で博士号を取得したアスマ教授はUAE女性知識人の草分けであり,学生の良い目標になっています.

イスラームの女性はもっと弱々しいのかと思っていた」と私が女子学生達に言うと,女子学生たちは「そう言われることに私たちは慣れていますよ」と言ってから預言者ムハンマドの愛妻アイーシャラクダを駆って戦闘を指揮しました.他にも古い時代にコミュニティのリーダーとして活躍した女性が何人もいることをイスラームの授業で教わっています.私たちはそういう女性になりたいと思っているんです」と言い,目を輝かせました.

イスラーム的には,強く,商魂たくましい女性は賞賛されているようだ.日本女性よりイスラーム女性の方が,よほど逞しいかもしれない.

男女差別視点でのイスラムの問題は

イスラムにも問題はあるが,問題点はそこじゃない.


イスラムの教えが障害になるとなるとすれば,たとえば海外留学でしょう.

イスラムには「女性をひとりで遠出させてはならない」みたいな教えがあり,それは「親族の男性がエスコートしろ」という義務と表裏一体.*4しかし国内や短期の海外旅行くらいならともかく,海外留学となるとエスコート役の男性を確保することができず,男性ならまだしも女性の場合はそれを理由に断念せざるをえなくなることが多いらしい.少なくとも敷居は格段に上がる.

「アーリアさん,日本語能力試験に挑戦しませんか?UAEには試験会場がないので,エジプトかトルコまで試験を受けに行かなくてはならないけど.」(中略)
アーリアさんは「受けたいです.でも女性ひとりで外国に行くことは家族が許さないので,お父さんに聞いてみます」と答えました.イスラームには「女性が家から遠い場所へ旅行するときは家族の男性を伴わなくてはならない」という教えがあることをその時知りました.

数日後,アーリアさんは嬉しそうに「お父さんが一緒に行ってくれることになりました」と報告してくれました.数ヶ月語,アーリアさんは父親を伴って受験のためだけに2泊3日の日程でエジプトのカイロに飛行機で5時間かけて行きました.そして,希望の級に見事合格しました.

会社員のヌーラさんはイギリスの大学を卒業しましたが,イギリス行きを親が許したのは,イギリスに居る親族がヌーラさんの面倒を見ることが出来たからです.


とはいえこれは程度の差であって,日本人女性においてもそんなに変わらんのではないかなあ.女の子の海外留学や海外ひとり旅は「危ないから止めとけ」という親は,まだまだ多いのでは無いかな?*5エスコート約が親族限定でないってだけ.


他にも職業選択の自由が大幅に狭められているとか,(男女差別ではないが)音楽家やダンサーの社会的価値が非常に低いとかも問題かもしれない.

http://b.hatena.ne.jp/entry/toyokeizai.net/articles/-/60190

  • id:kamayan1980 PV稼ぎっぽいので読んでないけどイスラムでは」って「アジア仏教では」と同じぐらい雑なくくり方よね
  • id:daisuk-com 日本の性差別に対する批判のためにイスラムを使ったと思うんけど、名誉殺人や婦女暴行への対応をはじめ酷い地域もあれば、女性を積極的に登用してる地域もある。一緒くたに扱わないでほしい。
  • id:ponkotsupon そもそもイスラームって一口に括るのが間違いで、世俗化が進んだ国から原理主義が横行する国まで色々あるだろう。

せやな.

日本は「仏教国」なんだけど,「日本における女性差別は仏教による物なのです(きり)」と「自称イスラム研究者」からコメントされたら,日本のお坊さんはなんと思うことだろう.

  • id:piruke06 性犯罪被害対策とか寒さ対策とかの面で考えればスカーフ強要よりスカート強要のほうが女性に無理を強いてると思う。寒い地方に住んでたから真冬の制服通学が苦痛で仕方なかった。

日本での男性へのスーツ+ネクタイ着用義務とか,中学生の学ラン強制なんて狂気だよ.

日本における高温多湿を嘗めんな.スーツや学ランを信仰しているあいつら前世紀の遺物はマジキチ.

  • id:tentsan 結局何が言いたいのかわからなくて??゜д??? / あんまり関係ないけどコーランには「女性は大事だ」という記述があるよ。女性区別はするけど蔑む文化は本来ない...が、字が読めないのでその内容を知らないことが多い
  • id:yingze イスラムの専門家じゃないのか。日本批判の道具にイスラムを利用するのはどうかなぁ武家天皇家が一夫多妻とか、いつの話だよ。/日本と同じようにイスラム自体をこき下ろしてるってこと?
  • id:Aodrey 介護の仕事に来た女性が雇用側からブルカ取るように言われて「裸になるような恥ずかしさを感じる」とコメントしてたのが、軽くカルチャーショックだったのを思い出した。
  • id:kaz_the_scum Globel Gender Gap Reportの順位を考慮すると責めるなんてなんとおこがましい・・・ジャーップランドォー
  • id:yuchicco 未だに「女の子は四大出ても意味ないでしょ」とかいう女の子ママがいてビビる。
  • id:nessko 無理に責める必要もない筈だが。この人の発想こそ原理主義では? 夢はソ連か?(崩壊したんだが)/アフガンやアラブの服装は宗教以前に砂埃よけ日光よけがあるように見える。

*1:たとえば「フトモモを晒す」のは普通か否かという問題を考えればいいのでは.今のジョシコーセーの格好は,数十年前なら「はしたない」格好では無かったか.仮に胸を隠さない若い女性が歩いていたらどう思うか.女性の何をどこまで隠すかは,単純に文化の問題.

*2:「手首や足首まで覆う服」なら,いわゆるリクルートスーツも同じ.あれなんかは合理的理由も全くなく,一種のカルト宗教といえよう.

*3:これに関しては日本の「スーツ」の方が不条理の極みだと思う.高温多湿な日本において,通気性の悪い服を着れば,最悪では熱射病や脱水症状で命にも関わります.あれは拷問の一種でしょうか.それとも宗教上の儀式でしょうか?そのような服装が何故半ば強制されなければならないのでしょうね?

*4:つまりは「箱入り娘」.現在の日本人基準だと「非常に過保護」なのだ.

*5:まあ実際に危ないこともあるけどね.自称PMC社長を名乗ってた馬鹿なオッサンとかな!