「日本は電子書籍の「後進国」なのか?--米国との差を「刊行点数」から推定」

http://japan.cnet.com/sp/t_hayashi/35064650/

かなり頑張ってるとは思う.それでもまだまだ大きな格差がある.


たとえば米国ではとっくに書籍化された技術書が,日本では出版予定さえなかったりする.米O'Reillyとオライリージャパンとの格差なんか酷いもんだ.

普段から本を読んでない人が刊行点数だけを使って測ろうとしても,そういう動きは読めない.*1 *2

特に「電子書籍」のような新しいメディアは、専門家が少なく、世の中に出回っている情報も少ないので、「私語り」がしたい書き手の、格好のターゲットとなっているように思います。
 どんなに根拠に欠けた「感想文」を書いても、批判がしにくく、対象自体が「動く標的」なので、勘違いや誤りも対象の変化にまぎれて、当否がわかりくくなってしまうからです。

根拠に欠けた感想文を書いてるだけの人間が偉そうに.

この記事は実に荒い分析でしかなく,単純な「量」による比較だけでは「質」の差が全く把握できてない.これでは実情を把握する上で全く不十分.100点満点中10点.やりなおし.

2013年の紙と電子を合わせた書籍(ここでは「総合書籍市場」と呼んでいます)の売上金額は、8787億円。電子書籍の売上金額は936億円なので、書籍全体に占めるシェアは10.7%になります。

 あれあれ? ほぼ米国と同じですね?*3 卸売ベースと小売ベースという違いはありますが、少なくとも「遅れてる!」と目くじら立てるようなレベルではないようです。

電子書籍の売り上げ?再販制度のある日本と自由な価格付けがされている*4米国で,売り上げベースの比較にどれほどの意味があるのか.

林智彦朝日新聞社デジタル本部)

なんだマスコミ関係者か.納得.

Kindle技術書(1)

たとえば日本だと,仮に電子化されても使い物にならない固定レイアウトの屑書籍である場合も非常に多い.

日本でまともな技術書が出始めたのは,2013年6月頃.

それ以前はまともな電子書籍は皆無と言って良い状況だった.米国では日本にKindleストアができる以前から普通にできていたことが,数年遅れの日本の出版社には全くできていなかった.


最近見てて特に酷かったのがたしかコレ.サンプルで見ただけでも,とてもじゃないが読めたもんじゃ無い.

IMPACT MAPPING インパクトのあるソフトウェアを作る

IMPACT MAPPING インパクトのあるソフトウェアを作る

なんでわざわざ二段組みにするかなあ?読み難くするための工夫?電子書籍への嫌がらせ?


洋書の方は,ごく普通の電子書籍

Impact Mapping: Making a big impact with software products and projects (English Edition)

Impact Mapping: Making a big impact with software products and projects (English Edition)

Kindle技術書(2)

非常に特殊な事例としては,「Mahoutイン・アクション」がある.これの洋書はManningだが和書はオライリージャパンから出版されている.

Manningの書籍は紙の本を買うと電子書籍がついてくる.Pdf,epub,mobi(Kindle用)のフォーマットが全部ネットからダウンロード利用可能.*5

Mahout in Action

Mahout in Action

http://www.manning.com/owen/
Manningのサイトから電子版だけを購入することも可能で,紙(電子書籍含む)だと$44.99,電子版のみだと$35.99.また紙の出版前に執筆中の電子版を利用することも可能だ.*6 *7

一方で和書のほうには,もちろん電子書籍は付いてこない.

Mahoutイン・アクション

Mahoutイン・アクション

http://www.oreilly.co.jp/books/9784873115849/
オライリージャパンのサイトから電子版を購入することも可能だが,別売りで価格3,456円.しかもフォーマットはなんとPDFのみというショボさ.*8これで電子書籍を名乗るのはねえ.

MEAPの例はもちろんのこと,米O'Reillyを含め電子書籍の出版時期が紙の本より早いのは米Amazonではさほど珍しい話では無い.一方の日本では同時発売さえ珍しく,出るとしても和書より数ヶ月以上遅れるというのも珍しい話では無い.

Kindle技術書(3)

次の本だと3版は固定レイアウトだけど,4版では普通の本に変わったようだ.それでも,まだデータ量は大きめだけど.

このように出版しなおされるのは運の良い方だ.大半ではどんなに使い物にならない屑電子本でも,そして内容がどれほど名著であっても,一度屑電子本として出版されたが最後,整形して出版しなおされることは滅多にない.

地球の歩き方 vs Lonely Planet,旅行ガイド

Lonely Planetは日本にKindleストアができる以前から可変レイアウト.地球の歩き方の方は固定レイアウト.

Lonely Planet USA (Travel Guide)

Lonely Planet USA (Travel Guide)

書籍の機能も異なるので一概に日本の方が悪いとは言いきれないが,事実上iPhoneAndroidスマフォで読めないのは欠点の一つだろう.

このくらいの規模になると,ブックマークできない,ハイライトやメモが書き込めないというのもすごく不便だ.


るるぶ」とかの雑誌的な書籍になると仕方ない気もするが,地球の歩き方は書籍的な性質も強いので悩みどころ.

イラスト徹底ガイド ニューヨーク こだわりの街歩き 改訂版

イラスト徹底ガイド ニューヨーク こだわりの街歩き 改訂版

ここまで来るとテキストのまともな電子書籍の方がいいと思うが,固定レイアウトの画像なんだ.

【デジタル版】ニューヨーク便利帳(R) Vol.23電子版

【デジタル版】ニューヨーク便利帳(R) Vol.23電子版

保存版 バックパッカーズ読本

保存版 バックパッカーズ読本

そこまでして画像に拘る意味が分からん.

充実度

また,たとえばアシモフのロボット物で言えば,日本では「われはロボット」と「鋼鉄都市」のみが出版されてるのに対し,米国では「はだかの太陽(Naked Sun)」と「夜明けのロボット(The Robots of Dawn)」もとっくの昔に出版されている.

鋼鉄都市

鋼鉄都市


I, Robot (The Robot Series)

I, Robot (The Robot Series)

*9
Robot Dreams (The Robot Series) (English Edition)

Robot Dreams (The Robot Series) (English Edition)

Robot Visions (The Robot Series) (English Edition)

Robot Visions (The Robot Series) (English Edition)

ファウンデーションシリーズも同様.故人だからこの程度の格差で済んでるが,現役作家だと新作の差も激しいようだ.


この辺も定量的に比較するのは難しいけどね.

http://b.hatena.ne.jp/entry/japan.cnet.com/sp/t_hayashi/35064650/

  • id:ad2217 電子書籍の良さを発揮できない漫画や、紙の紙面を取り込んだだけで拡大も不便なIT系技術書とか電子書籍の内容を比較しないと、進んでいるとか遅れているとか言えないと思いますが。

激しく同意.*10


日本の方がまだまだ遅れてるのは,残念だが事実.

  • id:akiraki 少し前まで電子書籍系の記事に沸いてた「俺が電子書籍を買わない理由」「俺の考える理想の電子書籍」系のブコメが付かなくなって来てて、それなりに普及してきたのかな感ある
  • id:tenjinjin まとまった巻数をかさばらずに持ち運べる漫画は、むしろ電子書籍のメリット大きいでしょ。
  • id:sakidatsumono 英語の本探していてうらやましいのは、値つけ自由なのがわかるのと、非営利団体が子供向けの無料本を大量に出しているところだな
  • id:atsushifx 日本でKADOKAWAが強いのは電子書籍化が一番進んでいるライトノベルレーベルがあるのが大きい。自前のストアであるBOOKWALKERがあるし同じ書籍を他のストアに卸している。日本の場合は電子書籍ストが多すぎて使いにくいこと

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この部分が日米(のIT技術書)で致命的に差を付けられてる部分だと思う.特にIT分野では陳腐化が激しいので,「半年は遅れます(きり)」が当たり前という現状は悪い冗談としか思えん.

マンガくらいなら「出るまで待ちます」「待ってたら,なんかどうでも良くなりました」でもいいんだけど,技術書だと「いつ必要かって?今なんです!」「1〜2ヶ月待ってたら,もう手遅れになりました.」というのがあるから困る.


まあそこは日本の文化でもあるので.

だからこそ品数の単純比較は無意味だと.同じ「書店」でも日米では全くの別物.

電子書籍は儲からないわww【出版社編】←あと5年はかかるでしょ」

http://www.frentopia.com/digitalpublish-pay/
ついでにメモ.

データ作成を内製している出版社が、電子書籍のデータも同時に作るのは、実はかなり負担が大きいです。

基本的にページ物の出版物を作る場合、Adobe社のInDesignというソフトを使用することが多いと思います。
このInDesignには、作成したデータを電子書籍データに書き出す機能があるのですが、正直この機能はそこまで優秀ではないです。
そのまま書き出しただけでは到底商品として耐えうるレベルではなく、確実にそこからの修正作業が発生します。

http://b.hatena.ne.jp/entry/www.frentopia.com/digitalpublish-pay/

紙ありきの発想から抜け出せてないだけじゃ無いかなあ.

米国で出来てることが日本の出版社でできないてないのは,紙中心主義に凝り固まった老害が足を引っ張ってるだけではないかと.老害には自分が老害であるという自覚がないものです.

  • id:satomi_hanten 新聞の電子版なんかテキトーにしか見えないけどアレで読む人居るんだからテキトーにPDFでいいんじゃないの。技術書とか実用書とかだと不便だろうけど。

PDFは糞フォーマットなので論外.レイアウトがテキトーでいいのは同感だが.

  • id:hoshinasia ちょっと前にムック系のinDesignデータを見たが、部分部分で(外注などの)違う人が作ったのが丸わかりなほどデータの書式がバラバラで、紙は歴史が深いだけに闇も深いなと…。
  • id:ya_ken 電子書籍のヘビーユーザとしては、ただで欲しいとか言う人は放置で、ちゃんとした価格設定で商品数を増やしててほしい???電子書籍は儲からないわww【出版社編】←あと5年はかかるでしょ (via @Pocket) -

*1:Koboが「○月までに○万点の書籍を用意すると約束したが,実際にはその多くが青空出版やギターのコード表で水増しされていた」みたいな事件もあったっけ.それは楽天Koboが既に2012年に通った道なんですよ.いまさら「出版点数さえ判明すれば、記事の執筆は半分終わったようなものだと思っていた。想定外」とは言わせない. http://blogos.com/article/44108/ , http://blogos.com/article/46005/

*2:たとえば日本のマンガやラノベの1冊と経済の専門書の1冊,英ペーパーバックの1冊と1000ページ超の技術書の1冊は全部1冊になるけど,それの点数比較に意味があるの?そういえばラノベや文庫本,シャーロックホームズの全巻セットでも「1冊」になるな.


マンガ新刊と電子書籍が同時発売でも1冊だし,陳腐化の激しいIT技術書が1年以上遅れて出版されても1冊だけど,それが同じ1冊にカウントして意味あるの?

*3:あれあれ?おかしいなあ?ああ!なんということでしょう!なんということでしょう!
ここは明らかな印象操作だな.マスコミ関係者らしく,姑息な手を使う.

*4:実際に大幅な値引きを目にするのも珍しくない.

*5:これもmanningでは随分前から当たり前.http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20111022/p1

*6:"Manning Early Access Program", http://www.manning.com/about/meap

*7:そのあたりの事情はPragmatic Programmerでも同様.例えば今だと"Ruby Performance Optimization"が出版前のβ版で利用できる. http://pragprog.com/book/adrpo/ruby-performance-optimization

*8:オライリージャパンで利用できるEBookのフォーマットは書籍によって異なる.が,PDFのみの本が非常に多い.http://www.oreilly.co.jp/ebook/

*9:あれ?現在入手不可能?

*10:漫画については,持ち運びや収納スペースという点ではメリットは大きいと思う.