野生のライオンは同性愛の夢を見るか?
- 「メスには目もくれず。オス同士で愛し合うライオンたちの姿が目撃される(ボツワナ)」http://karapaia.livedoor.biz/archives/52216011.html
- 「「同性愛ライオン」がネットで話題、真相は」http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/042000145/
先日来、2頭の「雄ライオン」が草原で交尾をする写真がネットをにぎわせている。ただしこの写真は、あるいはより興味深い事象をとらえたものなのかもしれない。
実は、下になっているライオンは雄ではなく、「たてがみのある雌」である可能性が高いという。そうした個体は、これらの写真が撮影されたボツワナ北部においては、めずらしくないらしいのだ。(参考記事:「風の中のライオン、南アフリカ共和国(1995年)」)
雄同士の交尾について、同氏はこう述べている。「私は(ボツワナで)20年間研究をしてきましたが、雄同士によるああした行為は見たことがありません。片方はたてがみのある雌と考えるのが妥当でしょう」(参考記事:「ライオン 生と死の平原」)
つまり未確認なのに,「自分が見たことがない」から根拠無しに「こうに決まってる」と決めつけてるだけじゃないのか.科学者の発言とは思えん.
特に性行為は継続して観測していないと気付かないことも多いだろう.たとえば後で紹介する「フラミンゴのゲイカップル」も,当初はオスとメスのカップルと思われていたそうだ.
これについての問題は,いくつもある.
- 本当に「たてがみのあるメス」だったのか,証拠がない.そういうメスが多いなら,DNA的にも証拠が挙がってるんだろうね?
- 「たてがみのあるメス」はDNA的,肉体的,フェロモン的にはオスなのかメスなのか.仮にDNAがメスだとしても肉体的特徴が全てオスなのであれば,それは他のライオンにとっても名実共にオスなのではないか.
- もう一方の雄ライオンは,たてがみのある「男らしい」雌ライオンを,メスだと理解していたのか否か.(「男だと思っていたのに,実は女の子だった.騙された.」)
- 雄ライオンは雌ライオンをどの基準で選ぶのか.*1女らしいメスよりも「男らしい」メスを選択したということは,それも一種の同性愛なのではないか?
- 肉体的に「たてがみのある」というオスの特徴を持つメスは,精神的にはオスなのかメスなのか.つまり性同一性障害はライオンには存在しないのか.
- 仮に「たてがみのある雌」が一般的で,しかも他のライオンからメスとして認識されるのが普通なのであれば,今までにも同様な事例が観測され,記録に残ってなかったのは何故か.
などなど.
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Sex on Earth: A Journey Through Nature's Most Intimate Moments (English Edition)
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こっちの本だと,同性愛らしい行動が多くの動物で観察されていること.他にも屍姦その他様々な行動が観察されていることが書かれていた.*2
第9章,「禁じられた交尾」にはネコのマウント行動に関して,日本人の山根明弘氏*3の研究が引用されている.
一番注目すべきは,こうして野良猫を延べ1420時間観察し続けた結果,オスが同性にマウントする事例は発情期のみに限られ,例外は一回もなかったという事実だ.ネコの場合,マウントは遊びではない.あくまでセックスと関わっている.
まだ先がある.山根は,オスがメスにマウントするのは,支配順位の確認でもあるまいと推測した.もしそうなら,年間通じた課題であるはず.なのに,同性へのマウントは一年中見られる現象ではない.
もう一つ興味深い発見があった.山根が観察したオス同士のマウント26例(多くはない)はすべて,発情期のメスの側でおこなわれたのだ.重要な意味がありそうに思える.
(中略)山根が最有力とみる仮説は,雌と交尾できずに不満が高まったとき,オスがオスにマウントする,というものだ.わたしの知る限り,とりあえず一部のオスネコの同性愛行動はこの仮説の範囲内に止まっている.
残念ながらライオンではなく猫ではあるが,興味深い話だ.
第10章「フラミンゴの異常な愛情」が同性愛の章かな?有名な「子育てするフラミンゴカップル」が紹介されている.
2007年,カルロスとフェルドナンドはオス同士でありながら無事に雛を孵して育てて見せ,世界的なニュースになった.CNNほか国内外の報道陣が殺到した(レベッカは"ウンザリだった"と振り返る).これを契機に,その後も,動物界でのホモセクシュアルについて記事やコメントが世に溢れるようになった.こうして執筆しているつい最近も,カルロスとフェルドナンドがフェイスブックの人気ページ"I f*ck Science"に取り上げられて,たちまち”いいね!”を77,000個集めた.
- https://www.facebook.com/IFeakingLoveScience/posts/617393524948329:0
- http://www.theguardian.com/environment/2007/may/21/conservationandendangeredspecies.climatechange
子育てが絡まない同性愛行動なら,日本やドイツでも報告されている.東京発の情報に寄れば,最近,日本の16カ所の動物園や水族館を調査したところ,同性愛のカップルが20組いたという.あまりにも頻繁に見られる行動なので,絶滅危惧種を人工繁殖する上でも悪影響が心配されている.
- http://blog.livedoor.jp/ani_soku/archives/53238712.html
- http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-24065820111109
http://b.hatena.ne.jp/entry/natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/042000145/
- id:kusigahama だとしたらライオン同士は何を持って雌雄を判別してるんだろう。匂いとかかしら。
ここが凄く本質だと思う.*4
遺伝子的に女性だとしても,外見も,ひょっとしたら脳も,オス的なライオンは,他のライオンから見てもオス扱いなのではないだろうか.
- id:udongerge たてがみのあるメスってのはヒゲのOLみたいなもんかな。
巨乳オッパイをぶら下げた男性かもしれない.
そういう「女性の性的特徴を持つ男性」に引き寄せられる女性は,レズなのか否か.
- id:death6coin これ、身体の基本はメスだったとしても精神的には雄の可能性があるのでは?/普通の雌雄だと思ったら、メス同士である可能性も残されているのか。
- id:multiplex00 ホモセックスかと思ったら男装ホモセックスとかもっと業の深いものだった可能性
- id:junjun777 「たてがみのある雌」、その可能性は考えてなかった。ウラが取れないから「真相」とはまだ思えないかな。
- id:anguilla すごく興味深い内容だけど、雄同士はほんとにないのかな?
- id:sekreto 上も雌ライオンの可能性について
- id:tama_lion オスどうしのマウントはジョージ・シャラーも記録してるし、そもそもオスなのかたてがみのあるメスなのかは下半身をみればわかるんだから、この写真からはわかんないにしても実際撮影した人は誤認しないと思うけどな
- id:pon_pom あれ?前の記事ではどちらが雌役かは決まっていないって書いてあった気がしたんだけど私の妄想だったかな
※追記:2016/04/22
http://karapaia.livedoor.biz/archives/52216011.html
上記ナショナルジオグラフィックの記事を受け、この写真の撮影者であるキャンブレさんは新たに動画を公開。その動画はオスのライオンが時に立場を逆転させながら交尾をしあっており、ナショナルジオグラフィックの説は考えられないと反論したそうだ。
*1:クジャクの羽などは有名.もしオスのように大きくて綺麗なハネを持つメスがいれば,それは周りのクジャクにとってはオス扱いなのではないか?
*2:この本が生物学の世界でトンデモ扱いされてるかどうかは知らない.かなり具体的な説明が入っているし,amazon.comで星一つがついてない以上はそんなに酷くないと思うんだけど.
*3:彼の著書でも猫の同性愛の項目は確認できた.
http://www.kmnh.jp/info/staff/yamane.php
*4:ちなみに上記の本では,パンダにおいては臭いが凄く重要だが,人間の飼育員は長年その事に気付かずに人工繁殖に失敗していた趣旨のことが書かれている.肉体的には完全にメスでも,メスの臭いをさせてないメスだと,繁殖しないらしいのだ.