続・その書評,書く前にちゃんと読んでますか? -「鋼鉄都市」

鋼鉄都市」の書評があったので,懐かしさと共に読んでいたら,なにこれヒドイ.

の続きみたいな話.

鋼鉄都市 鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336) The Caves of Steel (The Robot Series Book 1) (English Edition) 

鋼鉄都市」においてロボットとロボット三原則は大きな役割を果たすが,ロボット三原則の盲点などついてはいない.

これも「幼年期の終り」の時と同様に中身を全く読まずに書いてるだろ.「読書ギーク」だの「小説感想」だのと書くなら読んでからにしろ.

地球側から独立して、現状維持を目論む地球と衝突、逆に地球を制圧してしまう。

いや,暴徒の鎮圧はしたし宇宙市(スペースタウン)*1を建設まではしたけど,地球を制圧まではしてないはず.そもそも大半のスペーサーにとっては,地球は過去の遺物で興味の対象ではない.


ファストルフ博士みたいに命の危険を冒して地球にやってきてる人たちは,言わば「大の親地球派」で,一般的なスペーサーからすると例外.親地球派なので地球人を抑圧したりは望まない.むしろもっと仲良くしたいと考えてる.*2

地球ではすさまじい人口増加のため、食料をはじめとするあらゆる生活物資が不足。その解決策として効率化を目的としたコンクリートと鉄のドーム都市である”鋼鉄都市”を建築しそこに住む。

それは「不足」の定義による.スペーサーズワールドに比べれば確かに物は不足しているが,必用な物資は確保できており,飢えて死ぬ人はほとんどいない.風呂,トイレ,キッチン,食堂は共同だが,アパートは住むのに十分なスペースが与えられている.あえていうならこれらは効率化の結果.

ある日の献立は

  • マッシュポテトに酵母*3にアンズのシチュー +2枚のイースト・パン
  • イーストのナッツ・ケーキに,クラッカーにのせたものすごく薄切りのフライドチキン

だった.とりあえず必用なカロリーと栄養は満たされているが,さてこれを貧困と思うかどうかは人によるだろう.


もし等級が格下げされたら,この限りではない.そこには悲惨な生活が待っている.

しかし,ベイリには居住区で過ごした彼の子供時代の記憶があった.それは,人間の耐久力ぎりぎりの線で僅かに支えられるみじめな生活だった.彼は,母なる人をまったく覚えていなかった.彼女は,長く生きながらえることができなかったから.父はよく覚えていた.酒浸りの,愚鈍な,才気も誇りもすべてを失くしたぬけがらのような男だった.時折がさがさに荒れたとぎれとぎれの言葉で,昔を語った.

父親は,彼が八つのとき,格下げされたままで死んだ.少年のベイリと,二人の姉たちは,孤児の収容施設に移された.児童区とそこは呼ばれていた.母方の叔父ボリスはそうした彼らの運命をくいとめるには,彼自身貧しすぎたのだった.

現代のシティ内で,たんに生きていくというだけのことならば,最低生活は保障されている.だが彼は保証されているその最低生活なるものを,あまりによく知っていた.

シティにおける生活を過ごしやすくするのは,むしろ些細なものが多い.それは,あるいは一般人よりすこしばかりすわり心地のよい座席であり,あるいは高速走路に,他人よりほんのすこし早く乗るための特典を,保証する等級なのだ.哲学的に見るならば,こうしたすべての特典は骨折って獲得するに値しない些細なものに過ぎないだろう.

だが,たとえいかに哲学的精神豊富な人間でも,一度これを獲得したなら,苦痛を覚えることなしに放棄することはできないに違いない.これが,問題なのだ.

この辺の話は,アシモフの幼少期の体験が元になっているのかも.

大恐慌以後のどんな経験も、それを経験した者にこの世界は経済的に安全なのだと確信させる事はできないのだ。銀行は倒産するし、工場は閉鎖されるし、解雇の知らせはやって来るものなのだと、どうしても思ってしまうのだ。

しかし、アシモフ家は逃れることが出来た。なんとか、だ。我々は貧しかった。しかし、いつでもテーブルには食べ物があり、家賃は払う事ができた。空腹や家賃未納による立ち退きに脅かされる事はなかった。それは、なぜか?キャンディーストアーだ。それによって、生活に十分なだけの収入があったのだ。確かに、最低限であった。しかし大恐慌においては、最低限すら天国であったのだ。

http://okemos.hatenablog.com/entry/20090502/1241230773

鋼鉄都市』に出てくるロボットたちも例外なくこの三原則に縛られている。

だが、事件はこのロボット三原則の盲点を突く形で実行されてしまう。

それは違う.*4

鋼鉄都市」は一種の巨大な「密室トリック」が使われている.

  • 殺人事件は宇宙市で起きた.
  • 宇宙市側の全住民はすでに脳分析済みで,容疑は晴れている.
  • 地球側との入り口は厳重に管理されていて,蟻の這い出る隙も無い.
  • 荒野を横切っていけば誰にも見られずチェックもされずに,宇宙市に入ることができる.だが地球人がそんなことをするはずがない.
  • では一体だれが?どうやって?

そのトリックを突き崩していく過程がSF推理小説としての「鋼鉄都市」の醍醐味だ.詳細はネタバレなので避けるが,「ロボット三原則の盲点」ではないぞ.あえていうなら「それを捜査している人間の思い込み」だろうか?だがそれはほとんどの推理物の基本だ.*5


ニューヨーク市警の刑事イライジャ・ベイリは上司からの命令と昇級をちらつかされたことにより事件の真相を解明しようと奔走することとなる。

本部長のジュリアス・エンダービィはベイリの上司であると共に古い友人でもある.


彼は友人としてベイリに「お願い」すると共に,「昇進のチャンス」をも与えたのだ.

「C-6級になりたくはないかね?」
なりたくないかだと?ベイリはC-6級という等級のもたらす権利を知っていた.高速自動走路に乗っても,いままでのように十時から四時まででなく,ラッシュ・アワーでも席が取れる.地区共同食堂(セクションキッチン)での献立表も,高級なのが選べる.そしておそらくは,いままでよりもましなアパートに入居もできるだろうし,ジェシイのためには,日光浴室(ソラリアム)の割当チケットが取れるのだ.
「なりたいですとも」彼は言った「もちろんなりたい.なりたくないわけがないでしょう.でも,事件の目鼻がつけられなかったら,それこそ昇進どころの騒ぎじゃなくなりますよ.」
(中略)
「しかし撲は少なくともまだ君の友だちと思っているし,その友だちにとってこれがめったにない好機だと思った.ライジ,ぼくはきみにこの機会をあげたいんだよ」

ベイリ&ダニール物は,鋼鉄都市のあと「はだかの太陽」「夜明けのロボット」と続く.
はだかの太陽〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF) 夜明けのロボット〈上〉 (ハヤカワ文庫SF) 夜明けのロボット〈下〉 (ハヤカワ文庫SF) 
「はだかの太陽」は新訳版が出てKindle化もされたけど,「夜明けのロボット」はされなかった.やっぱ売れ行きが伸びなかったのかねえ.「夜明けのロボット」も安くはないけど,古本でならまだ入手可能.


なお,地球製「人型」ロボットのR・サミィと宇宙人製ヒューマンフォームロボットのR・ダニール,それに宇宙人製非ヒューマンフォームの「人型」ロボットのR・ジスカルドは,自分的にはだいたいこんなイメージで見ている.*6 ジスカルドは「夜明けのロボット」と「ロボットと帝国」に登場する.

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http://b.hatena.ne.jp/entry/www.dokusyo-geek-ki.com/entry/2016/05/07/231301

  • id:mugi-yama 読んだの中学のときなんで細かいこと忘れちゃったんですが、こういうのってどういうふうに盲点を突いたのか書かないと意味なくないですか/無言ブクマ多いな…

しかも実は盲点でもなんでもなかった.

前回に続いて,今回も読まずに書いてただけというオチがヒドイ.

*1:要するに宇宙人が住んでる「出島」みたいなもの.New York Cityに隣接して建設されている.出入りは厳重に管理され,招待されない地球人が立ち入ることは不可能.

*2:その辺の宇宙人の複雑な事情も長々と説明されてる.

*3:「彼自身も,酵母肉でなくて,なにかほかのものが食べたかった.その強いにおいと一種独特な後味が,あまりぞっとしなかったのだ.」「それに酵母肉はけっして悪い食物じゃないでしょ.蛋白菜だってそのとおり.とてもバランスのとれた,無駄のない滋養食品なのよ.ビタミンやミネラルや,そのほか人間の身体に必用なものはすべて入っているんだし.チキンが食べたければ,チキン火曜日に,共同食堂でいくらでも食べられるんですものね」

*4:「(ロボット三原則に)縛られている」という表現もね.間違いじゃないけど誤解を招きやすい.

*5:密室トリックでも同じだと思う.「密室の盲点を突く」のではなくて,「人間の盲点を突いて,密室を完成させる」だ.
「犯行時刻は6時間前だと思われていたが,実は1日前だった.トリックで犯行時刻を誤認させた」「密室内で殺害されたと思われたが,じつは殺害現場は別だった」「氷などを使って簡単な時限装置を密室内にセットし,被害者は自分で鍵を閉めた後,時間が来て殺されたのだ」「実は鍵はかかっていなかった」「被害者の内ポケットの鍵は犯行後に,巧妙にすり替えられたものだ」などなど.いずれも「密室の盲点」ではなく,密室と誤認させているだけ.

天城一さんによる密室の定義: 「時間Tについて,殺人が犯された時刻をR,推定犯行時刻をS,被害者の絶命時刻をQとする.」「T=Sにおいて,監視,隔絶,その他有効と「みなされる」手段によって,原点O(密室)に,犯人の威力が及び得ないと「みなされる」状況にありながら,なお被害者が死に至る状況にあること」

*6:こういうのもあるのか.
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「カッコ悪いロボット」の画像って意外と探すのが難しい.