やる気が出ないのは会社や上司のせい?

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20051109/224279/

コメント欄より.

その仕事に精一杯取り組んでいけば、必ず得るモノがあるはずです。その業務での経験は財産となって、本当に自分のやりたい仕事に巡り会えたときに役立つでしょう。

いや,必ずしもそうとは限らない.たとえ才能のある若者だったとしても,時代遅れの技術しか理解できない上司のもとで上司のご機嫌とりや社内の根回しで人生を浪費していけば,十年もすれば技術力なんてかけらもない技術者の屑のできあがり.それは人生の墓場だ.
高度経済成長の「右肩上がりの急成長の時代」であれば,その会社に長い間いるだけで,最後には「管理職に昇進して美味しい思いをして,十分もとがとれる」と言われていた.だがそれは既に過去のものだ.年功序列という名のネズミ講は既に崩壊し,新規参入者は搾取される一方で美味い汁を吸える日は永遠に来ない.*1

企画・マーケティング部門

営業にはこんな奴しかおらんのか?一触即発,一人一殺の険悪なムードにもなるのも当然だな.

『「システムは正常に動いて当たり前」というユーザーの考え方だ。』IT に限らずプロフェッショナルに対する当然の評価ではないですか?

プロ野球のピッチャーは全てのバッターを三球三振にしとめて当たり前だ.」「サッカーのゴールキーバーは全てのシュートを受け止めて当たり前だ.」こんなピッチャーやキーパーがいれば,そのチームは常勝無敗を誇るだろう.そして「一人でも三振にできなければ来年の年棒は今年の半分になる」「一本でも敵にシュートをきめられれば,以下同文」と言われたとすれば,ピッチャーやキーバーを目指す人はいなくなるだろう.*2


さて,転職の動機についてだが,「(自分のキャリアにプラスになるが,)仕事が辛い/面白くない/給料が安い」では,とりあえずもう一度じっくり考え直すべきだろう.面白くて楽して儲かる仕事なんて滅多にないし,たとえ面白い仕事でも嫌なことの百や二百は乗り越えなければならない.

なにより,転職自体は非常にリスクの大きい作業だ.大きな困難がつきまとうし,金銭的にも精神的にもつらいものがある.配偶者や子供がいたらじっくり話あう必要もあるだろう.家のローンがあるならその支払いをどう続けるかという問題もあるし,社宅に住んでいたら辞める前に引っ越す必要がある*3.もちろん転職したからと言ってバラ色の未来が保証されているわけでもないし,現状より悪化する可能性も少なくない.


しかし「仕事が自分のキャリアにプラスにならない/技術力や経験に繋がらない」というのであれば,なるべく早い内に転職を検討すべきだ.上司がそれに対する危機感に理解を示さず,「最近の若い者は堪え性がない」「時間がたてば自然に解決される」などと軽く思っている場合は特にそうだ.時間が経てばたつほど歳をとり,持っている技術は陳腐化し,そして「年齢に見合う経験や技術力がない」ということで時間が経ったことが転職に決定的に不利に働くようになる*4.一度そうなれば現状から抜け出す術を永遠に失ってしまう.転職が持つリスクも大きいが,今の仕事を続けることのリスクはさらに大きい.ならば答は一つしかない.

ひょっとしたら上司は「その仕事に精一杯取り組んでいけば、必ず得るモノがあるはずです*5。その業務での経験は財産となって、本当に自分のやりたい仕事に巡り会えたときに役立つでしょう。*6」「「石の上にも三年」と前向きにとらえて行く姿勢が大事かと思います。少なくとも私はそうしてきました。 」というかもしれないが,そんな寝言に耳を貸す必要はない.

上司は部下の人生やキャリアプランなど何も保証してくれない.そのつもりもない.そんな上司の戯言につきあって何年か経って,ふと自分をみつめた時に,現在の自分には技術力も経験もなければ財産もなく,そして若ささえも失っていたら,そしてその現状から抜け出す術さえも失っていたら,その時に人生に絶望するのは他でもない自分なのだ*7.上司は痛くも痒くもない.

*1:こう言ってはなんだが,山一証券という事例もある.自分が40歳くらいになって自分の勤める会社が山一のようになったとして,その時はたして再就職が可能だろうか,外部の人間が自分を採用したいと思わせるほどの経験や技術を手に入れているだろうかと胸に手を当てて考えてみるといい.それにYESと答えられる人は,そうはいないだろう.

*2:現実にこのようなプレーヤーがいれば,その人はチーム内でも最も高い評価と報酬を得るだろう.しかし日本企業ではそのようなNo1プレーヤーに対してさえも,横並び評価しか与えてこなかった.

*3:http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20050601#p2

*4:逆に言えば,尊敬に値する上司や師匠と呼びたくなるようなベテラン技術者がいれば,滅多なことではその職場は辞めない方がいい.その人の元で技術を学び,経験を積むことが自分にとっての財産になる.それは多少の給料の差など消し飛んでしまうほどの差だ.悲しいかな,IT業界にそんな職場は滅多にないと思うけどね.たとえあっても部下は上司を選ぶ権利もなければ,評価を下す権利もない.
そしてこれがIT業界を覆う閉塞感の理由でもある.現場を無視したマネーゲームならぬマネジメントゲームが続いた結果,現場から技術がどんどん失われて,今やそこには何も残っていないのだ.

*5:得た物と言えば,「上司の寝言につきあって人生を浪費したおれがバカだったよ.」と一つ大人になった事くらいかな.こんな経験など欲しくなかった.

*6:こういうことは営業希望だったのにシステム開発の現場に行かされた人に聞いてみたい.デバッガやエディタの使い方や構造化プログラミングの知識やコーディングイディオムが,営業の現場において一体何の役に立つのだろう?
実際には営業希望の人間は開発現場では役立たず以外の何物でもないので配属されることはまずないだろう.しかしもしあれば,自分の人生に絶望したり,一日も早く他の部署への配置転換を希望し,それが叶わなければ転職したとしても驚きはしない.

*7:経験者談.