SIerを取り巻くこれだけの不満

http://www.ciojp.com/contents/?id=00002477;t=12

このような、非IT部門出身のCIOがよく口にするのが、「IT部門の常識は他部門にとっての非常識、IT業界の常識は他業界にとっての非常識」との言葉である。

これはまさしくその通り.本質的に異なるものなのだから,その常識も本質的に異なる.少しは勉強しろ.

ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ

ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ

「システム構築や運用にかかっているコストが、本当に妥当なのか、だれも明解に答えてくれない」、

それは当然だ.
見積もりは最も難しい技術だし,ましてや「妥当」とはなんぞや?*1
大量生産品には相場というものが存在する.一品物の特注品でも,それがスーツくらいなら材料費はほぼ決まるし,人によって生産性が一桁も二桁も変わることは滅多にない.ソフトウエアでは材料費は極めて安く,生産性は人によって大きく異なる.
これでは明快に答えられないのは当然だ.*2

「作ったシステムが、どれほど効果を上げているのか、だれも評価していない」

それをやることこそがCIOの仕事だ.自分の仕事を放棄するな.

「予算が厳しいので2割値引いてくれと言えば、何の理由もなく、そのとおりに値引く」

そういうことばかりをやっていると,まともなベンダーや部下はつき合いきれなくなって去っていく.*3そして最後には

「自分の部下であるIT部門や、取り引きしているベンダーも含めて、IT業界の人は全員詐欺師だ」

ということになる.原因と結果を取り違えないように.
すくなくとも,この人はCIOとしては資質に問題があることは確かだ.

そのときに購買部が発した「情報システム部は、まるでベンダーの手先のようだ」という衝撃的な言葉は、今でも耳から離れない。

購買部はそんなものだろう.というか,システム構築を「購買部」が担当しているのか?大量生産品を購入するのとはわけが違うのだが.

確かに、システム開発や運用に投じるべき工数を事前に見積もることは容易ではない。また、あるスキルを持った技術者の単価の妥当性を示すすべが確立されているわけではないため

というより,事実上不可能である.

ユーザー企業のCIOが、SIerの提案に対して厳しい目を向けながら、より高い要求を投げかけることにより、業界を良い方向へと導いていくことが求められる。

要するに「CIOがSIerのどんな提案に対しても値切って値切って値切り抜くことが求められる.」と言いたいのかな?そうやって"利潤追求の法王"になったとしても,その果てに待つのは破局だぞ.


カルロス・ゴーン経営を語る (日経ビジネス人文庫)

カルロス・ゴーン経営を語る (日経ビジネス人文庫)

さて,ゴーンが米国にいた時に,世界の自動車市場,あまり類を見ない,非常に興味深い事件が起こった,ロペス事件である.(中略)*4
ロペスが糾弾したのはサプライヤーの生産システムの"非効率性"と,そこから発生する"無駄なコスト"であった.それを改善するために,ロペスはサプライヤーとの関係を根本から変革することにしたのであるが,この時に異端審問の聖書(バイブル)となったのがPICOS(Purchased Input Concept Optimization with Suppliers=対サプライヤー仕入れ最適化構想)と呼ばれるシステムである.このPICOSの教えでは,少なくとも理論的には,サプライヤーの生産工程が改革されて,部品の生産性や品質が高まり,価格が抑えられることになっていた.だが現実に起こったことは"GMの法外な要求に従って,サプライヤーが製品を非常に安い価格で提供する"ということだけであった.この結果,ロペスはまもなく"異端審問者"ならぬ,"利潤追求の法王"とあだ名されるようになる.

ある時,GMの人達はこんなうち明け話をしてくれました.「まったくロペスのやることときたら...あれは発作を起こしてるとしか言いようがないね.最近また突飛なことを考え出したんだが,そのばかばかしさと言ったら...PICOSだって!あんなものはうそっぱちだね.」私たちはこれを他ならぬGMの人達から聞いたのです.*5

また,実際,ロペスのやり方のおかげで,GMとはかなり深刻な対立も生じました.サプライヤーの立場からするとロペスのやり方からは何一つ得るものはありませんでした.ひとつもです.ただサプライヤーとの関係が緊張しただけでした.もしロペスのやろうとしたことが,サプライヤーと今までの関係を保っておいて,それでいて要求だけを厳しくしようというのなら,そこからは何も生まれません.

*1:ソフトウエアにおける「妥当な価格」に一番近い世界は、実はオークションだと思う.たとえば,それがゴッホの「ひまわり」だろうと現代の新進気鋭の画家の作品であろうと,それらには本来定価などは存在しない.材料費にしろ時間単価にしろ,その絵の価値とはほとんど無関係だ.ではその価格を決めるのは誰か?
その価格を決めるのはオークションの参加者.つまり客自身である.その客が5億ドル出しても欲しいと思えば5億ドルは妥当な値段で2億ドルは格安になるし,その客が50万円でも高いと思えば100万円は割高と言える.50円でも高いと思えば千円は法外な値段と言える.有名女優の使っていた割れた鏡だの映画で使われた小道具だのになると,この傾向はなお一層強くなる.欲しい人なら何百万,何千万出してでも手に入れたいものかもしれないが,興味のない人はタダでも要らない.
この客に相当するのが,情報システムにおいては本来はCIOなのである.

*2:「ソフトウエア開発の難しさは,ソフトウエアが持つ本質的な複雑さによる」.それはちょうど明日の天気を『予知』するのが難しく,科学の粋をこらしても天気『予報』しかできないのと同じ理由だ.

*3:「価格を下げろ.嫌ならお前らには二度と仕事は頼まない.」というのは零細企業には一番の脅迫.こう言われれば鉄筋を3割減らしてでもコストダウンせざるを得ない.値切った分は,最後には品質低下となって自分の身に帰るだけと心得よ.

*4:92年ということだからジャパンバッシング華やかなりし頃,クルーグマン教授が若き日の情熱を経済学の啓蒙に傾けていた頃のことかな.

*5:PICOSの部分をPMBOKCMMUMLモデリング開発プロセス標準などに置き換えると,どこかの業界にそのまま当てはまる.下手をするとオフショアもこの仲間入りするかもしれない.