「博士は誰でも取れる」は嘘だったよ

http://www.j-cast.com/2009/05/17041154.html

  • 全体としては明らかに多すぎます。
  • ではどの程度削減すればいいのでしょうか。
  • 今の半分程度、つまり倍増加する前のレベルで十分だと思っています。

「明らかに」かどうかはともかく,需要がそのままで供給が増やされたために供給過剰になっているのは昔から指摘されていた.目新しくも何ともない.減らす方に関しては半分と言ってるが,その数値に関するなんら客観的な根拠は示されておらず,とんでもない丼勘定だ.

その大きな要因は「競争」にあります。アメリカではまず大学院に入る際、3倍ぐらいの厳しい選抜をくぐり抜け、さらに厳しい勉強で鍛えられドロップアウト組が結構出ます。博士号を取れるのは半分ぐらいでしょうか。一方、日本の院は、誰でも入れて誰でも博士号を取れるといって過言ではない、ぬるま湯のような状態です。入るときの倍率は0.7倍、そして入ってしまえば9割ぐらいは博士号を取ることができます。

まあ「米国では厳しい競争にされされ」の部分は嘘ではないかもしれないが,「日本では入ってしまえば(努力しなくても)9割くらいは」というのは嘘だったよ.経験的に言ってもね.

そしてもう一つの問題.たとえそうであっても,その「ぬるま湯」は中学高校,大学学部卒や修士卒でも同じなのだ.なのになにゆえ,博士「だけ」が就職難にまきこまれるのか??

かの人物は,この最も重要な疑問に答えていない.もし能力的に修士卒と同等以上のものが期待できる博士卒の学生が修士卒とが同じ値段ならば,誰でも博士卒を採ると考えてもおかしくないだろう.なにも米国のように「博士卒なんだから修士卒より遥かに高額な給与を払え」と言ってるわけでもないのに,米国では仕事があり日本では仕事がない.それは何故なのか?


で,答としては毎度お馴染み「高度経済成長の亡霊」である終身雇用と年功序列賃金に帰ってくるわけだ.*1 *2

  • 「たとえば修士だと、初任給で5万円高く、その差は35歳まで残る。だからそれだけ学士より戦力だと評価されないと無理」とのこと。要するに、年齢で処遇を決める仕組みだからだ。
  • 博士の就職問題がクローズアップされるようになった。同様の傾向はずっと以前から存在したが、90年代以前は絶対数が少なかったから、教職や研究員ポストで上手く吸収できていた。90年代後半の文科省の改革によって絶対数が増えたことで、日本が抱えていたある恥部が赤裸々にされたのだ。その恥部とは。先進国にも関わらず、企業が高等教育を生かす術を知らず、また大学側もそれに甘んじて形骸化していたという事実だ。
    僕が一番危惧するのは、こういう状況で、果たして日本社会にイノベーションが生まれてくるのだろうか、ということ。よく「学生は保守的だ」という意見がある。終身雇用が良いとか、大企業が良いとかいう人は今でも多数派だから、僕もそう思うこともある。でもその原因は人間性ではなく、むしろこういった保守的な環境にあると思う。一言でいえば閉塞感だ。新しいものに挑戦しにくい空気というか、一度レールを外れたらなかなか戻れない恐怖というか…。

それに米国だと初任給は5万円どころの騒ぎではないのではないかな.もちろん求められるものも高いけど,支給される奨学金の話も加味すれば日本の博士が優遇されてるとはとても思えないぞ.


「理系は騙されたけど文系は自己責任」というのも言い過ぎだと思う.いずれにせよ「なんで学部卒/修士卒ならOKだけど,博士卒だけはだめなの?」という,日本企業の抱える本質的な問題には答えてない.

日本の研究のクオリティが低下していきます。低競争の中に身を置いていると、トップの層の堕落も始まります。

それって,日本企業そのもの,特に人事部じゃんと.

研究費がトップ層に十分に回らない可能性も出てきます。最近接した理系の大学生からは「博士課程にいくと人生終わる」と、博士課程に進んだ先輩を見ての感想を聞かされました。こうした空気が広く蔓延するのは日本のためになりません。院生数の総枠削減と適正配置を真剣に検討すべきです。

かつて一度でも博士卒の専門家が優遇された時代が日本にあったのだろうか.一度,中村修二氏にでも聞いてみたいものだ.


なおIT業界に関して言えばもっと簡単.高等教育を必要とするほど,高度なことをやってる会社が日本にはないからだ.

  • 日本のIT企業の9割は、ホームページ製作会社
  • 工数(人月)で費用が出るから、工数を減らす効率化のモチベーションが低い。中小企業の経営陣は生産性の向上じゃなくてサービス残業で収益改善を目指した。
  • 壊れたら捨ててしまえばいい。「兵隊は死んで初めて価値が出るんだよ」と上司に言われたのがいい思い出です。
http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51466352.html

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.j-cast.com/2009/05/17041154.html

  • id:bgnori 需要が無いとよい人が来ないので意味のある競争は生じない。会社に入る前に「プロ」なドクターはいまの雇用慣行ではいらないからなぁ。
  • id:mojin 結局今いるポスドクとかの救済は自己責任でお願いね、ってことですよね。
  • id:takahiro_kihara ”誰でもとれる”は言い過ぎ。それなら、僕はなぜ退学に追い込まれた?たかが交通事故で。文系を自己責任で切り捨てているところも、ちょっと疑問アリ。
  • id:erya 供給が多すぎるという点についてフォーカスしているが、需要を増やすという点についても議論すべきじゃね?企業の博士号持ちに対する偏見解消など。
  • id:Tamansky 「誰でも入れて誰でも博士号を取れる」←どこの大学の話だ? せめて中堅校以上のだけでいいから、過去10年分の学校基本調査を精読してから言ってくれ。そもそも学部以上の学位取得は倍率で計るべきじゃない。

いやまったく.倍率が意味を持つのなら,査読論文の立場がない.

  • id:geophysics 「産学連携に関する人材コンサルティング」今一番胡散臭い業種の一つ。米国でPhD取って日本の某アカデミアにいる自分の知見からすると,この記事の内容は誤情報だらけ(日米比較など)で根本からトンデモなので要注意。

そう言えばなんで「産学連携リエゾンオフィス」でも「産学連携コンサル」でもなく,「産学連携に関する『人材』コンサル」なんだろう?そもそも産学連携において「学」の側が行うものの一つが人材提供なので,人材コンサルの出る幕などないはずだが.*3

技術系人材派遣会社に10年勤めた後独立。

なんだ,単なる派遣会社の人転がし屋のなれの果てか.納得.

http://d.hatena.ne.jp/next49/20090517/p1

いい加減、大学院(博士+修士)の話と博士の就職難の話をごちゃまぜで話すのを止めていただきたい。日本はアメリカ式の大学院制度じゃないので、主流は修士課程までなんだってば。いまや、修士の就職率は4年大卒の就職率と同等かそれ以上のはず。(中略)
話のメインは博士号取得者の就職のことなんだから、大学院というくくりにして話を水増しするのは止めてくれ。記者の方が出している大学院生の在籍者数は、大学院修士課程と博士課程の在籍者数を足し合わせたもの。橋本氏の回答は主に博士課程の話。読者があたまごっちゃごちゃになっちゃうよ。

*1:くわえて,上司や経営者が専門知識を持たない素人なため,専門家が活用できないという問題も多いかも.野球のやの字も知らない素人が,プロ野球チームの監督になれば勝てるものも勝てなくなる.

*2:「博士卒はプライドが高い」というのは完璧に嘘.マスゴミや企業人事部が流したデマでしょう.博士卒も修士卒も,それどころか学部卒でも,人間的にはそんなに変わるものではない.

*3:ほしいのは「ニーズとシーズのマッチング」とか「知財関連の法務コンサル」とかの方だと思う.