「灰色の車輪」とロボット三原則
- 作者: 小林泰三
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2013/11/15
- メディア: Kindle版
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...とりあえずお目当てだった「灰色の車輪」は激しくつまらなかった.半額+20%ポイントでも「もったいねー」って思うくらいつまらん.
SF作家じゃなくて,作家志望の初心者が始めて書いた小説かよって感じ.*1
科学文明と無縁に育った青年が天空にのびる“天橋立”で出会った女の子は、とびきり可愛い宇宙旅行の案内係だった―無垢な若者が初体験するめくるめく恋と大気圏離脱を描いた表題作、“ロボット工学の三原則”の間隙を突く「灰色の車輪」、男女の権利格差が逆転した社会の秘密を描く「性交体験者」、異星人との驚くべき最悪のコンタクトが語られる「三〇〇万」等、バラエティに富んだアイデアを論理的に突き詰めた、全8篇収録の奇想SF博物館。『海を見る人』に続く傑作ハードSF短篇集。
という触れ込みだが,どうも見かけ倒しというか,路線が全く別らしい.
『灰色の車輪』
本書収録作の中で一番駄目。正しい理論が物語を引き立てず、展開は陳腐の一言。
ロボット三原則を引用しているのに、内容は旧時代のフランケンシュタイン的ロボット物へ逆戻りしてる。アシモフに対する侮辱に思える。
http://www.amazon.co.jp/review/R1SFR41482IL22/すでに不安でいっぱい.
そもそも本当に「ロボット三原則の盲点を突いた作品」ならSF史上に残る名作として,もっと名前が売れていてもいいと思うんだ.
アシモフのロボット3原則を破って動き出すロボットのお話。
個人的に、お話のアイディア的にはちょっと乗り切れなかったお話です。
人間のために作られたロボットが肝心のロボット3原則を破る、嘘をつく話はアシモフの「迷子のロボット」と言う超傑作があるわけで、ぶっちゃけ、ロボット側がはじめから人間を騙す意図がありありだった上に、人間の明らかに悪意を持った不注意でロボットが暴走するって言うのは、こう、ものすごい違和感がつきまといます。
たぶん、私がカバー裏の「ロボット三原則の盲点が引き起こす悲劇」ってあおりを鵜呑みにしたのが、楽しめなかったというか、違和感を覚えた原因だと思います。はじめからそういう作品と思っていれば、違和感を持たなかったはず。本当に、ロボット三原則の盲点って言うなら、アシモフの「迷子のロボット」をはじめ、偉大な先輩が山ほどあるわけで、「三原則の盲点を……」ってあおられるとどうしてもこれらと比べて「三原則の理論の問題を純粋に突いているかどうか」って判断基準で作品を判断しちゃ言います。
http://abaraboroboroinpc.blog.fc2.com/blog-entry-27.htmlどうしようかなあ.ダメだしするためだけに購入すべきだろうか...
http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20140926/p1
と以前書いてて,今回安かったので買ったわけだが,本当にヒドイ.凄まじい駄作.少なくともハードSFではなない.
- 天牙博士がマッドサイエンティストすぎ.ドクターゲロが常識人に見えるぞ.ドクターゲロでさえ17号と18号に対する危険性は認識していた.
- サイボーグでもない試作ロボットにわざわざ痛覚を持たせ,苦痛をあたえる意味が無い.単なるマゾヒストだろ,これ.
- ロボットが自尊心を見せた段階で,アシモフのロボット三原則が実装されてないことは明らか.監査官ならそのくらい気付け.
- ロボットに恋愛感情が自然発生する根拠がない.天牙博士がそんな無駄な感情を入れたとも思えないし,(ハード)SFならそこに説得力が欲しいなあ.
- AIやジェミニィが欠陥だらけ
- コアとなるAIが,最初から人間に敵対的.むしろそうなるように煽ってる.
- あまりにAIの思考が「人間的」すぎる.自己保存本能とか虚栄心とか恋愛感情とか怒りとか.そんな感情がやたらと自然発生するわけがない.
- 試作機の良心回路が外付けで,しかもフェイルセーフになってない.「壊れない(はず)だからダイジョーブ!」って,それは技術者としての基本が駄目すぎだろ.学部一年生からやり直すべきレベル
- 外付け型良心回路の方がコアAIより性能が低いってことが制作者自身が自覚しているのに,なんの対策もない.AIが良心回路の回避手段を模索するのを止めさせる手立てがない.実際に回避する実例が出始めているのに,天牙博士はそれが危険だということさえ認識できてない.
- MF銃を用意するより前にやるべき対策があるだろ.
- MF銃にどれだけ威力があっても,当たらなければどうということはない.
- なんで試作型ロボットに人並み外れたスピードとパワー,それに装甲を持たせる必要がある?*2 半永久的な内蔵動力源も不要.
- そもそも実験用なら足なしで移動不可,非力な両手(or片手)のみで,ネット接続機能無しのスタンドアローン,外部電源(バッテリー)で、電源は素手でも簡単に引きちぎれるくらいで十分なはず.汎用型のマニュピレータも不要だろう.*3
- 良心回路が試作ロボの腕力で普通に抜き取れる.そこは頑丈なケース内*4に良心回路を固定し,ロボの腕力では傷一つ付かないようにしておくべきだ.
- 良心回路がAIとは完全独立していて,単体で抜き取れて,抜き取り後もAIが普通に動作する.物理的にも一体化させておき,下手に抜き取るとAI側も物理的に損傷するようにしておくべき.*5
- タイマー付きの時限爆弾を内蔵しておき,一定期間ごとに認証コードを打ち込まないと自爆or機能停止するようにしておいてもいいのでは?
- 試作機の外観も人間そっくりに作る意味が無い.特にロボット三原則準拠のロボットは,相手が人間かロボットかで行動が変化するので,外見で一目で識別できる方が安心.
- AIの試作品で男性型と女性型に分ける意味が.
- そもそものロボット三原則の解釈が,アシモフのそれとは全く異なる気が:アシモフのは本能だが,これは足枷.
なんか他にもツッコミどころだらけだった.一体なにが書きたかったんだコレ.
反乱を起こすロボットが「ブライ王(ブライ・キング)」で、事態を解決するアイテムがロボットの電子頭脳だけを破壊する銃「MF銃」って言うあたりで、もう、先生好きですねぇと言わざるを得ません。
http://abaraboroboroinpc.blog.fc2.com/blog-entry-27.html
http://www5.airnet.ne.jp/komi/wf2013win/mf_gun.html
http://blog.goo.ne.jp/syutainnmettu/e/3ba70264678597768ad3150110b0efdf
「上月麗奈(レナ)」さんは「上月ルナ」かな?
やっぱそういう視点で見るのが正しいのかな.制御装置の名前が「ジェミニー」であることについては「うん。アイテムの名前を70年代のロボットヒーロー由来で統一したのか。良いコーディネートだね」と評するか「ロボットと銃をキャシャーンで統一したのに、制御装置はキカイダーか。統一感にかけるね」と評するのか迷うところ。
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というか,灰色の車輪版の「ジェミニィ」は,どちらかというと「良心回路」というよりは「服従回路」だよね?天牙博士という悪の心に強制的に従わせる装置で,「人間の命令に従う」というロボット三原則準拠のものでさえない.
天牙博士はテンガ博士と読むのかな.これも天馬博士のオマージュと考えれば,その手の作品のごった煮かも.
- 作者: 手塚治虫
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「暴走する可能性があるので,イザという時のための停止装置を用意しました。でもついウッカリ(やっぱり)奪われちゃったよ。」という辺りは,ドラゴンボールのパロかとさえ思った.
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そして良心回路を抜き取るシーンは,ゲッター炉心を抜き取るゲッターロボだ.
いっそ全部パロディで進めてれば,まだ楽しめた気が.
- 作者: 小林泰三,KEI
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他のもチラホラ読んでみたが,うーんSFとしては陳腐もいいとこだなあ...科学考証が駄目なSFってどうよ?
たとえば「盗まれた昨日」.
人間の長期記憶を保持する大容量記憶デバイスがUSBメモリみたいなロック無しで抜き差し可能な外付けメモリで,暗号化も認証も冗長化も自己診断機能もバックアップも一切なしとかありえんだろ.ウッカリつまずいて転けただけで全人生消失の危険があるんだよ.おちおち自転車にも乗れない.跳んだり跳ねたり転倒したりするスポーツはもってのほか.普通に内蔵型メモリ or SSD相当のデバイスを頭蓋骨内にネジ止めでするのでいいはず.
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- 作者: がぁさん
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http://d.hatena.ne.jp/KenAkamatsu/20120502/p1
http://www.mangaz.com/book/detail/42471
あれ無料で読めるっぽい?知らなかったけど,100円だしまあいいや.
「造られしもの」(臓物大展覧会に収録)
- 作者: 小林泰三
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人間って何よ?的な話その2。人とロボットとの関係性の話。ロボット三原則を踏まえつつ。痛覚を持ったロボットを破壊するシーンは素敵でした。
http://migi.hatenablog.com/entries/2009/04/07
「少女、あるいは自動人形」と共通するテーマがありますが、こちらは完全にロボットと人間の関係のみ。
ロボット三原則が機能しているという前提があってこそのストーリー展開。ネタバレですが、
待てよ。男は思った。なぜ医師ロボットは俺の死を見過ごそうとしているのだろう? まさか……。
「そして、また次の人間を設計し、製造する。われわれロボットのために」
これに尽きますね。
http://d.matori.org/log/review-zoumotsu-dai-tenrankai/
全てにおいて人間よりも優秀なロボットが、人間の人生を完全にサポートする世界。例えるなら穏やかなターミネーターの世界の様な。
http://tirihumi.blog109.fc2.com/blog-entry-45.html
人間はただ存在し、何も生み出さず、世の中の重要な事柄は全てロボットが取り仕切る管理社会。
そんな世界にどうしようもない劣等感、屈辱を覚え反抗する、とある一人の男の物語。
『少女、あるいは自動人形』と共通するテーマ「不完全な人間と完全なロボット」を有する作品。
オチはの予想はなんとく出来るものではあるけれど、ラストの先生お得意の邪悪さにやっぱりニヤリ。
というのもあるらしいが,はてさてこの調子では読むだけの価値があるとは思えない.
*1:本当にそのレベルの人だと,起承転結や「てにをは」レベルで駄目なのかもしれんけどな.
*2:これは「チャッピー」と同じ問題. CHAPPIE/チャッピー アンレイテッド・バージョン [Blu-ray]
*3:タチコマ君のように自分のメンテはおろか,グレネード弾を自分にセットすることさえできないくらいでちょうど良い.
*4:つまり「頭蓋骨」に.