ブラック企業と解雇規制は無関係
http://mojix.org/2009/07/09/why_black_company
相変わらず糞な記事を書いているZopeジャンキー日記.
- 雇用流動性と解雇規制は無関係: http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20080603/p1
- 「規制能」VS「自由化能」: http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20090110/p3
放置しておくと何をしでかすかわからんので,一応反論しておく.
もし海外にブラック会社があったとすれば、「何も知らない人が間違って入社したとしても、すぐにヤメて誰も残らない」と書かれている。これが正しいとして話を進めよう。
この時点で既に「仮の話」になっている.*1
ではなぜ、日本人はブラック会社を辞めないのか?
1) 日本人はガマン強いので、辞めない。
2) ほんとうは辞めたいが、転職が難しい。主にこの2つだろう。
- 「石の上にも三年」というくらい,「忍耐」を美徳とする価値観がある.特に人事部がこの価値観の信奉者であるため,転職者を色眼鏡ごしに評価する.
- 91年度より断続的に続く就職氷河期で,若者には職場を選ぶ余裕がない.
- 強烈なまでの新卒偏重.ゆえにたとえ若者でもブラック企業に一日でも在籍した人は「既卒」の転職者になり,新卒と同じ土俵で戦うことはできない.*2 *3
- 日本人にとって言葉の壁(というか英語の壁)が大きいため,外国の企業に転職し,他国へ移住するのが容易ではない.*4 *5 *6
- 驚くべき事に人事部が面接を執り行う.このため応募者の能力は評価されない.
などなど.
日本はなぜ雇用が流動的でなく、「転職しにくい」状態なのか。これは職を生み出す側、求人する側である企業の立場で考えると、すぐにわかる。その理由は、
「高度経済成長期に作られた雇用慣行を未だに引きずっているから」がその答だろう.
年功序列賃金の元では「若い人ほど安上がり」なので求人は新卒に一極集中する.実は新卒はコストパフォーマンスでは必ずしも最善ではないのだが,人事部の目はフシ穴なのでパフォーマンスを測ることができない.ゆえにコスト面だけで人材を測ろうとする.
これに対して外資系企業では日本ほどには新卒偏重ではなく,むしろ専門スキルを重視する.*7そもそも「新卒と既卒の区別」も「入社式」も「定年」も,日本の年功序列賃金が生み出す日本企業特有の歪みではないだろうか.*8
それに,解雇規制を守って解雇しなくても給与を下げることは可能なのだ.業績が悪化した時に中高年の給与をカットしてでも新卒を採用しようとする企業が,どれだけあっただろうか?それがごくごく僅かだということは,就職氷河期を経験した人にはいうまでもない.ならば解雇規制を緩和したところで若者を斬り捨てるという決定を下すのが,現在の日本の経営者と人事部の哀しい現実だということも理解できるだろう.
日本テレビの08年度以降の新人は賃金が別制度に切り替わり、最大で3割近く低下 するとのこと。1万円低くなるという話は一部メディアでも触れられていたが、諸手当を含めるとそんなものではすまないらしい。
ここには、日本型雇用の矛盾が全て顔を出す。
業績悪化、人件費原資の圧縮が必要。
http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/05f3f7c9ecf58853a0a1f9afc2115a9f
↓
でも労組は大反対。リストラなんてもってのほか
↓
しょうがないから新人の賃下げで帳尻あわせ
- 「雇用の流動化バンザイ」(ただし自分たちは除く): http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20081220/p1
http://b.hatena.ne.jp/entry/mojix.org/2009/07/09/why_black_company
- id:ymScott 毎度の詭弁乙。「1)の理由のひとつ、そして2)の理由がほぼ全て」で原因のほぼ100%になる根拠が無いのでダウト。オレは「1)のそれ以外の理由」が9割以上占めてると思うが。/根拠が詭弁なので他は無意味。
- id:casm この人のエントリが読むに値したことが無い。手も変えず品も変えず、一貫して「解雇を自由にすれば世界は良くなる」。
- id:drmn_nobt その通りではあると思うけど流動化によってうまく回すには経済成長によるパイの拡大が根本的な条件
言われてみればこの人の話って,有効求人倍率が優に1以上で,且つ雇用のミスマッチも起こらなくて,且つ給与も高騰しているような,高度経済成長かバブルのような,あり得ないほど理想的な状況を暗に仮定しているようですね.
実際には有効求人倍率が1を下回ることだってあるし,しかもその求人のかなりの割合をブラック企業が占めていたり,求められるスキルにミスマッチが発生したり,運良く仕事があっても給与が激減することくらいは,このご時世だと珍しくないんだけど.
- id:pandamarch 雇用に関して労働基準法なんか空文化して規制が全く機能してないのに解雇に関してだけ規制がガッツリ機能しまくってる理由を説明してほしいわけですが。
解雇規制なんて有名無実だけどなあ.*9
- id:shibacow 良く分からない。求職時にその会社の離職率が分かれば良いのでは。問題は、ブラック企業と、求職者の間の情報の非対称性にあるのではないかしら。離職率って見れましたっけ?
その手の資料は公開されてないと思う.特にブラック企業が正直に自分達の暗部をさらけ出すとも思えない.たとえ仮に正確な統計があったところで「法人の権利害する」というわけのわからん理屈で,国はそれをひた隠しにするでしょう.*10
- id:citron_908 実際にこれをやろうとするとものすごい二極化社会になると思いますので、何度も言いますが住宅政策とか教育とか家族制度についても流動性を上げないと対応できません
- id:hal9009 問題は何故雇用の流動性が低いか。法規制の問題ばかりではない
- id:takaBSD 本来流動性があるはずの派遣労働市場において、簡単に派遣切りされるけど、新規契約するときの基準が正社員ほどではないにせよ厳しいという現実がある。派遣なのに、スキルじゃなくて年齢や転職回数を重視する。
年功序列賃金,長期の住宅ローン,連帯保証人*11,礼金等も全部厳しく規制すべきでしょうね.
あと新卒/既卒で区別することも,履歴書に年齢を記載することも,年齢に関する質問をすることも全部規制し,違反した企業は厳しく処罰すべきです.*12
- id:inumash 『ニッケル&ダイムド』でも読むといいと思うよ。高流動社会にはそれに適応した“ブラック企業”が生まれる。ウォルマートとかね。
- 作者: B.エーレンライク,曽田和子
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2006/07/28
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 57回
- この商品を含むブログ (59件) を見る
そう言えばamazon.co.ukでもそんな話があったな.
- http://slashdot.jp/it/article.pl?sid=08/12/19/0244201
- http://blog.livedoor.jp/news2chplus/archives/51315161.html
- http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003399.html
- 作者: 横田増生
- 出版社/メーカー: 情報センター出版局
- 発売日: 2005/04/19
- メディア: 単行本
- 購入: 13人 クリック: 598回
- この商品を含むブログ (202件) を見る
- id:steam_heart 海外ではブラック企業という区分がないだけだと思うがにょう。鬼のような低賃金で労働者を働かせて、正社員なのに生活保護受けているような会社もあるからなー。
- id:te2u 解雇規制がなくなれば、今度はそれを利用したブラック会社が生まれる。/「ブラック会社」といわれる理由は別にある。そもそも、ブラック会社は法を守っていないところが多いのでは?
- id:oukayuka その論理だと、むしろ無駄に人材の流動性が高いIT業界にブラック企業が多い理由が説明できない。
- id:www6 こういう言説に惑わされてはいけない。ブラック企業が儲かるのは労働をダンピングしているからで、労働法規制を強化してそれらを潰すことで市場を適性な状態に戻せば解雇規制の緩和と同じ以上の結果が得られる。
- id:fromdusktildawn ブラック企業が儲かるとか書いている人がいるが、実際には儲かっているブラック企業の方が例外的で、儲かってないブラック企業の方が圧倒的に多数だよ。
収益が低くて最底辺だからこそのブラック企業.SIerなんかを見ればわかるけど,技術力もブランドもマーケティング力も独自商品もなにもない最低企業は、労働力をダンピングしなければ存続できない.こういう企業の流動性を上げたところで,収益が上がらない限りはブラックであり続けるだろう.*13
あとは国がそういう違法なブラック企業を保護するか潰すかの違い.日本では政府やマスコミがブラック企業を保護し続けてきたことが最大の要因では.
- id:yellowbell 成果の個別交渉や就業時間の自己裁量など、労働者に権限を与えて自律させるなら、雇用流動化もいいだろう。で。能力があれば明日にも取締役に抜擢できる流動性を持つ企業は、日本に何社くらいあるんだろうね。
- id:tks_period 単純に解雇規制を解除したらどうみても数年は自殺者数が+1万人かと。方向性としてはそっちに持って行って負のスパイラルを断ち切るんだけど、最初にどこから変えて誰に貧乏くじ引かせるかが問題。
現在の日本だと,貧乏くじを引くのは間違いなく若者.今までもそうだったし,これからもそうだろう.
1991年からの就職氷河期がなによりの証拠.
ブラック企業の創り方
1 トンネル会社で下請法逃れ
テレビ局が子会社(議決権50%超)を通じて製作会社に番組製作を発注、製作会社は発注書もしくは契約書を求めたが、うちは子会社だから下請法は関係ないと拒否された。
2 発注書は放送後、金額の記載もない3 支払いは放送後、納入から2ヶ月以上の場合も
4 完パケのドラマでも著作権は局のもの
http://zarutoro.livedoor.biz/archives/51235353.html
製作会社が企画から編集まで終えて放送するだけのドラマでも著作権はテレビ局が強奪、話し合いもなし。
5 番組制作費を一方的に一律カット
レギュラー番組の制作費を一方的に減額、抗議すると「他にいくらでも安く作るとこはあるんだよ!」
6 追加発注、注文キャンセル
番組のホームページ製作を追加発注するが、代金を支払わない。
番組を再放送で埋めると言い出し、その分の代金を支払わない。
フジテレビが番組制作費を削るため、「ザ・ノンフィクション」の予算の75%カットを制作会社に要求。ところが業界団体が反発したため、50%カットに収まったという。
http://zarutoro.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/75-09e4.html
10月には、「天才志村どうぶつ園(日テレ)」や「ザ・ノンフィクション(フジ)」の制作会社の代表が経営に行き詰って自殺したとゲンダイが報じている。
こういうことを親会社にされると,下請け孫請けはブラック企業になります.
IT系に多いのも納得だわ...
「日本的経営が社畜を生んだ理由」
http://d.hatena.ne.jp/elm200/20090711/1247288309
ついでにメモ.関係あるような無いような.
一見、日本人ボスのいうことは、経営者にとっては理想的にも見える。ただ問題なのは、「経営者の立場に身をおく」というのが、単なる精神論に終わってしまう可能性が高いという点だ。そもそも、組織のヒエラルキーの下の人間には、組織全体を俯瞰できるような情報が与えられていない。その中で「経営者のように行動しろ」と言われれば、無限の長時間労働を以て応えるしかないのではないか。
この点は強く同意.*14
"Buddy, Can You Spare $5 Trillion?"
http://www.frontlinethoughts.com/pdf/mwo071009.pdf
http://d.hatena.ne.jp/masayang/20090711/1247382808 経由
さらについで.
*1:まあ,この部分について「だけ」は自分も同意するのだが.
*2:中高年だと門前払い.
*3:今年は新卒でさえも就職活動は厳しいそうだが,そういう人が今度は「既卒」の枠で理想的な企業が見つかるだろうか?おそらくは別のブラック企業に入るか,さもなくばニートになるかの選択を迫られることになるだろう.
*4:「もしこの様な強制労働現象が欧米地域のどこかの国で起こったらエンジニアはどうするか。確実に他の国に移住するだろうってことだ。
日本という国は日本語という防壁のおかげでグローバリゼーションから身を守られている部分もあるが、日本語のみという障壁のおかげで、無理強いさせられていることも沢山あるのだなあ、と。」http://remote.seesaa.net/article/62499486.html
*5:「ソ連」にブラック企業があったとしても,誰もどこへも逃げられなかったろうなあ.命がけで亡命しない限りは.さすがは世界で最も成功した社会主義国家ニッポン.
*6:これもシャレにならないなあ.それではまるで鎖国だよ.http://d.hatena.ne.jp/higayasuo/20090709/1247116463
*7:http://www.chikawatanabe.com/blog/2009/06/age_discrimination.html
*8:年功序列賃金を温存したままで解雇規制だけ取り除くととんでもないことになるだろう.たとえば新卒に対してだけは全求人が殺到して超売り手市場になるけれど,十年ドロのように働かせて中年になったら全員解雇.もちろん解雇された人たちは再就職もままならない,ということになるかも.或いは労働組合と経営者が結託して自分達中高年の雇用だけは温存したまま,ある年齢以下は「彼らは代替の効く労働者だから」という口実で解雇.派遣やアルバイトとして給与を減らして再雇用とか.ロシア経済の民主化時の混乱を繰り返すことになりそうだね.
*9:http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-fb88.html
*10:http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20090331/p1
*12:http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20070127/p4
*13:というか,ブラックだからこそ離職率が高いんだよな.居心地の良い優良企業なら,解雇規制が無くったって滅多なことでは辞めないってば.
*14:「船頭多くして船山に上る」って諺なかったっけ?意志決定を下す責任者が二人以上いる組織なんて,質の悪い冗談だよね.