「SE神谷翔のサイバー事件簿」

http://d.hatena.ne.jp/JavaBlack/20130910/p1 の続き.

サンプルを読んだだけだけど,これはおそらくすごくつまらない.

IT業界のことを全く知らない部外者が,偏見を元に書いた駄文のようだ.

  • 東工大理工学部修士卒(マスター)JAVA*1の開発経験があり国家資格である情報セキュリティアドミニストレータを持っている.学生時代にシェアウェアを販売していたこともあるという」:素人が好みそうなものを羅列したんだろうけど、非常にちくはぐで不自然.大学を出すなら学部だけでなく学科も重要.情報工学なのか建築工学なのかでは,専門分野がまるで違う.学生で研究に没頭していればシェアウェアを開発する暇なんてねーよ.作者は工学部に行ってないんじゃね?
  • ほっそりしていて色が白く,入社二年目にしてはダーク系のスーツがよく似合う.」「髪はほどほどに黒く,スーツもキチンと着てくる.」:スーツを着ることを求める会社はそんなに多くないと思う.ましてや中小零細ならなおさら.「色が白くて細身」というのは,まさかIT系の人間はそういう人が多いと思ってるんじゃないよね?
  • 電話が鳴っても,まず取らない」:これは普通.技術者にとらせる会社は糞.*2
  • 「電話を受けた日時の欄に「今」と書かれていて脱力した」:IT系の人間なら,時刻の扱いは素人よりも遙かに厳格.ある意味で時刻を扱うプロフェッショナルでもある.こういうミスをするような人はプログラマとしてはド三流.
  • 「週報は「てにをは」がめちゃくちゃで,主語がどこやら分からない始末」:これもIT技術者としては考えにくい.自然言語の曖昧さを廃した厳密な仕様記述と読解は,IT技術者の基礎スキルの一つ.*3
  • エクセルでは,合計範囲を間違えていたり,金額が二桁ずれていたり,」:1,技術者はエクセル操作についてはかならずしも熟練者ではない.2,しかしその手の操作ミスをすることはあまりない.使い方を知らないということはよくあるが.*4その程度のツールも使えない人間はIDEプログラミング言語も使いこなせない.
  • 「(オフィスはゆりかもめの駅の近くで)台風が来ればゆりかもめは止まるし」:IT系だといざという時の交通の便はむしろ重要.万が一のトラブル対応が求められることもあるから.交通が脆弱なオフィスがないとは言わないが,すごく不自然.
  • 「帰りは五時のチャイムが鳴ると同時に,席をたってしまう」:イイハナシダナー.「終電に間に合わないので,お先に失礼します!」の方が,ありがちな気も.
  • 「金曜に催された部内の歓迎会さえ顔を出さなかった.」:開始時刻に間に合わないのは普通の話だし,参加しなかったからと言ってそれは個人の自由.

むろん,主人公がSEとは名ばかりの落ちこぼれ駄目人間であれば上記のような無能を絵に描いたような人物であっても構わないのだが,だとするとサイバー犯罪を解決できる名探偵にもなりえないし,またSEとして生計を立てるのもむずかしい.*5


どうやら,「なれるSE」とは正反対で,作者は開発現場のことを全く何も知らないようだ.


エンタメ作品として必要ならフィクションに突き抜けてもいいとは思うんだけど,こういう,いかにも何も知らない素人が取材も何もせずに偏見だけで書き連ねましたってのは,やっぱり白けてしまうなあ.

*1:本当に全部大文字で「JAVA」と書いてある.

*2:基本的に「手が離せない」のが普通だから.割り込みが入ればそれだけ生産性が下がり,最終的には会社の業績にも響く.

*3:しかも記述されてるのが日本語とは限らず,英語のことも珍しい話ではない.

*4:そもそもMS Officeを使うことがあまりない.むしろバグ管理や仕様書作成など,Excelを使ってると恥ずかしい場面の方が多い.

*5:シャーロックホームズなどがその典型的な例だけど,ホームズ自身は地球が太陽の周りを回ってることさえしらない一般常識に欠ける社会不適合者だが,本職(犯罪捜査)に関係する知識は非常に豊富で,観察力にも優れている.上記の例でいえば電話の応対やスーツの着こなしはまったく不要だが,時刻の処理や仕様書記述などはSEの基本スキルなので,それらができない「優秀なSE」というのは考えにくい.