「PCR検査をめぐる「5つの理論」を検討する」

https://webronza.asahi.com/national/articles/2020051500010.html?page=1

私は「感染症が分からない」と断ったのだが、「公衆衛生の専門家」を自称しながらも、「疫学が分からない」人が次々に現れて、理論の破綻したことを言っている。しかも、それが全く問題にならないという状況が続いていて頭が痛い。

マスコミはねえ.本当に技術オンチ・科学オンチだから.

PCR検査増やせ」とか,あまつさえ「全数検査しろ」とか,もうね.

  • 【①カルピス理論】何でどのくらいの濃さで割るのかで変わる味わい 
  • 【②アイスクリーム理論】それ、因果関係ではありません
  • 【③寿司屋理論】値段が10倍だと満足度も10倍?
  • 【④パクチー理論】中華街で聞いたら日本人の90%はパクチー好きでした
  • 【⑤下茹で理論】下茹でだけで食べたほうがいいんじゃないの

「アイスクリームが売れると水難事故が増える」という関連があったとする。これは「気温上昇」という原因から「アイスクリームが売れる」、「みんなが泳ぎに行き、水難事故が増える」という2つの結果が生じ、それが関連を持ったという例である。当然のことながら、アイスクリーム販売を禁止しても水難事故は減らない。それと同じ考えで、「PCR検査を増やしても死亡者は減らない」という考え方は成立する。

 私は小田垣名誉教授の意見が間違っていると言っているのではない。私にはPCR検査を2倍にすると(陽性者が2倍になり)隔離効果が2倍になる」と読めるが、その理解は正しいか、ということと、もし理解が正しかったら、比例関係と考える理論的根拠を聞いてみたい。それだけである。あと、九州大学の疫学の専門家にどうしてコンサルトしなかったのかということも重ねて聞いてみたい。

問題は②のナビタスクリニックの報道で、東京新聞の1面トップ記事として大きく掲載され、記者による「解説」が付されていた。特に井上靖史記者による記名解説は、すでに報道された慶應大学病院の結果も近い値を示したことを引用し、「国内で感染が確認された人数を何十倍も上回る人がすでに感染した可能性を示している」と報じ、「これまで検査数を絞ってきた世界でも珍しい日本式のやり方は見直しを迫られている。いったん決めた政策に固執せず、転換を図るべきだ」と結論付けている。

 代表性の担保なしで、このような断言は間違いであることは明白で、報道と同時に抗議の電話、メールが殺到し(私も出した)、東京新聞は、杉谷剛・社会部長名義で「『誤解を与える』批判について」とのコメントを出さざるを得なくなった(5月12日)。内容は以下のとおりである:検査を希望した人たちは、無作為に抽出した検査と比べてもともと偏りがあり、広く一般の人たちを代表しているとは言えません。「記事は、一般の人たちの5.9%が感染したことがあるとの誤解を与える危険性がある」というご批判を重く受け止めます。

より深刻なのが、①の慶應大学病院の事例である。大学病院のホームページに、ユニバーサルスクリーニングの結果が掲載されているのだが、新聞記事のデータとなった4月13日から19日のもの、5/67 (7.46%、その後陽性が判明した患者が1人あった)の前に、4月6日から12日の結果、0/97(0%) とある。報道された時点で、すでに結果の出ている前の週のもの(全員陰性)を報じずに、当該週の6.0%だけを報じるのは、バイアスという言葉で片づけるにはあまりに悪質と考える。これは、説明が必要な事例と個人的には考えている。

抗原・PCR検査は現在の感染を見るもので、新型コロナの治療法がない(あるのは対症療法)こともあり、この検査の主目的は「隔離」である。そしてその問題点は「感度が低いから隔離が十分にできない」ということである。それを「検査の数」で補うことはできない。何度も繰り返すが、抗原・PCR検査は感度が低く、そういう検査に頼った戦略は危うい。個々の事例はともかくとして、総論としては、治療は原因ではなく症状に応じてするものと考える。

① 患者数把握ではなく死亡者数最小化
② 病院は隔離ではなく治療を
③ 治療は原因ではなく症状に応じて
④ 検査は希望ではなく必要に応じて



朝日新聞「だけど」いい記事.

激しく同意だが,いいのか,それ言って.


ソフトウエアのテストでもモンキーテストも使うけど,それだけだと非常に非効率でテスト漏れも多い.テストは考えて,計画的に行うもの.

ましてや,無知な人間が安心感を得るための道具では断じてない.*1



この辺りの一般人との感覚の違いは,テストに対する考え方にも通じるものがあると思う.

そう,私は長年,技術の変遷を見てきたが,それは少しずつ忍び寄ってきた感じだった.数年前にケープカナベラルのロケット打ち上げ中止を伝えるニュースを聞くまで,変化に気づきもしなかった.このニュースのまとめに入った時,1人のアナウンサーが「NASAによると,原因はコンピュータソフトウエアのエラーと言うことです」とコメントした.

もう一人のアナウンサーが,「コンピュータのように単純でありふれたものがこんな間違いを起こすのは変ではありませんか?」と言った.

「そうですね」と最初のアナウンサーが応じた.「ソフトウエアのテストはしてないのでしょうか」

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いや,ソフトウエアのテストはしているだろう.断言してもいい.ところが,このアナウンサーは,どうやらテストをすれば完璧な製品ができるはずと考えているのだ.

この会話と,キャスターの非現実的な期待について考えずにはいられなかった.最初はただ肩をすくめて「これがソフトウエアテストに対する一般大衆の無知ってものだ」とひとりごとを言ってみたが,もはやそれですますことはできなかった.次第にこのことに対する意識が高まってきた.クライアントのソフトウエアメーカーのマネージャーでさえ,同じような無知を示すことに気づき始めた.特にマネージャーに多いのだ.ソフトウエアテストのことになると,かれらは正気を失う.

テスト/PCR検査は基本として「抜き取り検査」である.*2 もちろん完璧なアプリも,完璧なテストもない.「網羅度100%だからこのソフトは完璧です」なんてことにはならないのだ.

そういえば,今あるバグの総数なんて,本質的に誰にもわからんのよね.一つずつ潰していって,徐々に「枯れた」状態になるわけで,

*1:今現在実際に,いつどこで感染するか分からない状態なのだから,油断してはいけないのだ.昨日の安全が,今日の安全を保証してくれるわけじゃない.

*2:特に感染症は検査後も状況は毎日変わる.昨日感染してなくても今日感染するかもしれないし,今日大丈夫だから明日も安心というわけではない.
生活習慣病などは容体が急変するものではないから,定期検査で問題がなければ今も大きな問題なしと考えて問題ないだろう.癌であれば早期発見早期治療が鍵を握る.しかし感染症においては,昨日の感染してなくても今日感染するかもしれない.特に特効薬がないCOVID-19のような場合は「疑わしきは自己隔離」くらいしか手はない.