「初公判で報じられたこと、報じられなかったことーPC遠隔操作事件」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20140215-00032554/
メモ.

予想通り過ぎる.

勾留が丸1年に及んでいる片山氏が「保釈を認めてほしい」と切実に訴えたことを取り上げたメディアも多かった。なぜか今頃になって「口下手だが、母親思いで、動物好きの優しい男。犯罪に関与したとは思えない」という知人の談話を伝えたメディアもある。(*1)

とはいえ、逮捕時に各紙が号外を出し、第一報で1面を含め3頁にわたって展開し、連日多くの紙面を割いて報道されていた頃と比べると、どうしても物足りなさを感じる。(*3) 半年以上に及んだ公判前整理手続の間に、新たな事実が次々と明らかになったのに、主要メディアは一様に沈黙していた。

(1) 法廷で再生された防犯カメラ映像

第一に、江の島の防犯カメラ映像が法廷で傍聴人にも見える形で約30分再生されたが、これについての情報が非常に乏しかった。読売、毎日、東京は報じたものの描写はほとんどなく、朝日、産経、日経は再生されたこと自体を報じていなかった。防犯カメラ映像は、この事件ではほとんど唯一といってよい、IT知識がなくても分かりやすく理解・評価できる証拠なのに。
法廷で再生された防犯カメラ映像が映し出した江の島のベンチ周辺。中央やや右側で男性が腰かけているベンチ付近にグレイと男性がいた。(日本報道検証機構撮影)法廷で再生された防犯カメラ映像が映し出した江の島のベンチ周辺。中央やや右側で男性が腰かけているベンチ付近にグレイと男性がいた。(日本報道検証機構撮影)

昨年1月5日、犯人が送ったいわゆる「延長戦メール」に誘導されて、警察が江の島で遠隔操作ウイルスが入った記録媒体(Micro SDカード)が取り付けられたピンク色の首輪をつけた猫、通称「グレイ」を発見。警察は付近に設置された最新鋭の防犯カメラの解析から、1月3日に猫に記録媒体付き首輪を取り付けた人物として片山氏を割り出し、逮捕に至った。「画素数が3メガピクセルで、ハイビジョンテレビ並みに鮮明な映像で録画が可能」産経新聞2013年2月11日付朝刊3面)な防犯カメラに、「猫にピンク色の首輪をつける男の姿が鮮明に映っていた」(読売新聞2013年2月11日付朝刊3面)と報じられ、「容疑者特定の決め手」と主要各紙がこぞって報じたものだ。

これに対し佐藤博史弁護士は弁護人となって間もない昨年2月14日ころからメディアに「首輪を取り付ける姿が映った映像」の実在に疑問を投げかけた。公判前整理手続の証拠開示を受け、佐藤弁護士は映像は不鮮明な上、やはり首輪を取り付ける様子は映っていなかったと発表(だが、どこも報じなかった)。その映像が法廷の大型ディスプレイで流され、記者を含む法廷にいる者全員の視線が注がれたのである。

私も傍聴席から凝視していたが、正直いって何がなんだかよくわからなかった(以下の描写は、矯正視力1.0程度の私がディスプレイから少なくとも5メートル以上離れた位置から見たものであり、ディスプレイを目の前に置いて繰り返し再生して見た場合とは異なることをご了承いただきたい)。問題の猫・グレイは、弁護人が評したように(おそらく目前にディスプレイを見れる状態であっても)「米粒」みたいなもので、これだと指してもらわなければ容易に分からない。いわんや「ピンクの首輪」をや。人物の顔も全くわからず、リュックサックを背負った目立つ恰好のこの男性が片山氏本人だと言われても一目では識別できず(ただ弁護側はこの人物が片山氏であること自体は争っていない)、その説明をとりあえず受け入れた上で「リュックサックの男」の動きを追うしかない。頻繁に人が行き交い、グレイがいたベンチの近くには大道芸人を囲んだ人だかりもあった。

これは当初から怪しまれていた部分.

300万画素は防犯カメラとしては「高画質」なのかもしれないが,デジカメとしては「数世代前の旧型機」レベル.しかも防犯カメラの性質上,レンズは望遠よりは広角よりになるので,キリンや象の首輪ならともかく,遠く離れた猫のような小動物の首輪など見えるはずもないのだ.

それに大道芸がやってくるような人が大勢集まる時と場所を選ぶのも,犯人の心理としてはあまりに異常だ.犯人には何か別の目的があって,検察がその偽装にまんまとはめられたと考えた方がよほど筋が通る.*1

「リュックサックの男」は周辺を行ったり来たりし、グレイに近づいたり離れたり、抱きかかえるような姿が見て取れる。そして、防犯カメラを背に向けた姿勢で猫に向き合っているような場面で、検察側はこの時に首輪をつけたはずだと指摘したが、首輪を取り出したり取り付けた様子は観察できない。また、猫に向かってかがんで写真を撮るかのような姿勢をとり、同じ姿勢のままぴょんと位置を変える様子も確認できたが、その手に何があるのかは定かでなかった。
首輪が取り付けられた江の島の猫「グレイ」(日本報道検証機構撮影)首輪が取り付けられた江の島の猫「グレイ」(日本報道検証機構撮影)

検察は冒陳で、「被告人は、周囲から人がいなくなるのを待ってから、同猫に接触し、同猫を周囲の目から隠すような体勢をとり、何度も周囲の様子を窺いながら両手で作業した」と主張した。彼が猫に首輪を取り付けた犯人だと決めてかかれば、そのように見えなくもない。しかし、猫と向き合って撫でていただけなかもしれないし、そうした体勢をとっていたのは1分にも満たなかったように思われ、そばを行き交う人も絶えずいた。

また、検察は「撮影した写真を確認してガッツポーズをするなど特異な行動をとっていた」とも主張。だが、「ガッツポーズ」姿は全く分からなかった。この点、検察の「ガッツポーズ」の主張を紹介した上で、「これを立証するため、公判の終盤で証拠の防犯カメラの映像を約20分再生した」とだけ伝えた報道もあったが、実際の映像を見た記者の印象は全く書かれていない。(*4) これでは冒陳の書面があれば誰でも書ける。何のための裁判取材なのだろうか。

仮にガッツポーズだったとしても,大の猫好きがお目当ての猫ちゃんに触ったり写真を撮ったりしたら,ガッツポーズの一つくらいしても何もおかしくあるまい?検察は頭おかしい.

もしこれが大の猫嫌いが猫に触ってガッツポーズしてたら,確かにそれは異常な行動だと思うんだが.,..

いずれにせよ、この法廷での防犯カメラ映像の再生で明らかになったのは、片山氏がグレイに近づいたり、しばらく周囲を行ったり来たりしていたことは分かるものの、問題の首輪を手に持っている様子やそれを取り付ける様子は映っていない、ということである。(*5)

予想通り.

ちなみに、検察官が明らかにした鑑定書の作成日は昨年12月。全ての起訴を終え、捜査終結を宣言したのが昨年6月。弁護人はこのズレに着目し、鑑定結果が出ていない段階で起訴に踏み切ったのではないかと検察側を猛然と追及していたのだが、このあたりの場面は、読売新聞が「この証拠を巡り、弁護側が『詳しく説明すべきだ』と批判し、激しく言い争う場面もあった」と報じた程度で、何が問題になって言い争ったのかの説明はなかった。

中世っすなあ.

*1:当初は検察がなにか別に決定的な証拠を掴んでいるけどまだ公開してないだけという可能性も考えたんだが,本当に何一つ証拠がなかったとはあきれ果てる.