「TOEIC高得点社員の英語力ギャップ なぜ?人事担当者もビックリ」
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/130407/ecd1304071821005-n1.htm
http://newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130408-00000500-biz_san-nb
本日の釣り堀.お約束のヒドイ記事.
むしろ,まずはコッチを読むことをお勧めする.
「武田薬品工業さんが、なぜ新卒全員に、なぜTOEIC700点を義務づけたか」
ではなぜTOEICが使われるかというと、メリットが5つあるからです。
http://ameblo.jp/netpipeline/entry-10777314320.html
- コストが安くすむ
- 多くの社員に一度に実施できる
- 人事部にとっての手間が少ない
- 評価の客観性が担保しやすい
- 測りたい英語力の難易度との妥当性が高い
本題に戻って
「内定塾」責任者 高嶌悠人
就職氷河期で不安になりがちな若者心理につけ込む悪質な企業だと覚えておこう.*1
近年、「英語力」を測る目安となっているのは、TOEICと言われる検定試験です。この「TOEIC」と言われる検定試験は、120か国、年間約600万人以上が受験(2010年度)しており、日本でも年間227万人が受験(2011年度)している世界共通テストです。
主に日韓で使われてるだけとも聞くけどね,理由の一つは両国とも英語と母国語とのギャップが大きく,英語が苦手という共通点があるからだろう.*2
そういった背景から、企業の選考においてTOEICで高いスコアを保持していることは、就活において非常に有利と考えられています。大手電機メーカーや素材メーカーの人事担当者から聞いた話に依ると、内定者の多くは就活時点で750程度のスコア(最高点が990)を保持していると言っています。
ここでTOIEC 700点台を「高得点」だから英語ができて当然みたいな雰囲気を演出しているが,仮にTOEIC 700点がTOEICテストにおいて「高得点」だったとしても,その英語力は「高レベル」ではない.むしろ「中の下」くらいと認識した方が日本人の感覚的には合ってると思う.*3 *4
700点どころか900点取った人間でもろくに喋れない人はいるという.しかし語彙力,文法,各単語の発音,語順通りに英語のままで理解する能力,速読/速聴などの英語の基礎力については一定レベルに到達していると考えてよい.
しかしそれはある意味でスタート地点でしか無い.「英語のプロ」になろうと思ってる人は,そこから長い戦いが始まる.
しかし、入社後の実体を聞いてみると、TOEICのスコアは高いが英語でビジネスメールが書けなかったり、英語圏の外国人との会話ができなかったりするらしく、企業の人事担当者も頭を抱えているそうです。
これで頭抱える人事担当が馬鹿すぎる.*5それは元より想定されてる話.
- ブコメでも突っ込まれてるが新卒が訓練もせずにビジネスメールを書くのは,母国語でもできるとは限らない.
- 会話に関しては,素のTOEICにはスピーキング/ライティングのテストは含まれてないので,その技能に関しては保証されない.*6
それと「英語圏の外国人」で十把一絡げにするのも問題.いったいそれってどこの国のどんな人?米国英語とイギリス英語でも発音が違うし,同じ米国人でも訛りがある.外国人と会話するのに慣れていて分かりやすい英語を話してくれる人もいれば,ネイティブの速度で強い訛りで分かり難い英語を話す人もいる.ましてインド英語くらいになると普通の日本人だと聞き取れなくて当然だと思う.
- 作者: 中谷美佐,森川尋美
- 出版社/メーカー: ジャパンタイムズ
- 発売日: 2004/11/05
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
- 作者: 榎木薗鉄也
- 出版社/メーカー: 研究社
- 発売日: 2012/08/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 5回
- この商品を含むブログ (10件) を見る
「TOEICの攻略本の中には、英語が全く話せなくても満点を取る方法がある、と断言しているものもある」と言います。
そりゃ,TOEICはリーディングとリスニングのテストだもの.スピーキングが全く出来なくても満点を取ることはあっても不思議では無い.しかしリスニング/リーディングが全くできなくて,高得点を取ることは有り得ない.
そして初歩的なスピーキングについては,フレーズを丸暗記したり,簡単な単語と身振り手振りを交えたりするだけでもできるのだな.ライティングについても同様.箇条書きなどはライティング初級者の大きな武器だ.
さらに「リスニングができても英会話のできない人」はいるが,「リスニングができなくて英会話の出来る人」はいない.リスニングなしの英会話は,たとえ一見どれほど流暢に見えても,投げっぱなしの一方通行なのだ.*7また英会話をできているように見える人が,本当に相手の話した内容を正しく理解できているかは,英会話を見ているだけでは分からない.
だから「初等英会話の基礎力」としてリスニングを測るのはそんなに的外れな話では無い.
要するに、TOEICというテストは、ある程度の攻略方法をマスターすることで高得点が狙える試験なのです。
ここで論理が飛躍している.*8
たしかに受験テクニックを覚えることで,そうでない時にくらべて100点くらいは上がることもある.しかしそんなのはどんなテストでも同じだ.付け焼き刃の受験テクニックを付けた後が本当の勝負の始まりだ.*9
しかもTOEICについては受験テクニックだけでは高得点を取るのが非常に難しい.点数を伸ばし続けるにはコツコツ単語を覚えたり,毎日多読他聴を続けるような地道な努力が必要だ.そういう意味では非常に良質のテストでもある.
そのため、TOEICスコアとビジネス現場で求められる「英語力」との間にギャップが生まれてしまっているのです。
同じTOEICの点数でも,スピーキングやライティングに大きく個人差があるのは事実.*10
しかし方向性についてはそんなに変でもないよ.まずリスニングができないと会話もできないし,会話不要でリーディングと初歩的なE-mailライティングのみを求められる職場もある.リスニングとリーディングができないのに,英会話とE-mailのやりとりだけできるというのも考えにくい.
ですので、学生生活では机上での勉強に限らず、会話中心の授業を受講したり、留学生と交流をする場を設けたり、留学をしたりして、活きる「英語力」を身に付ける機会を自らつくってもらいたいと思います。
TOEIC600点以下くらいだと,会話中心の授業をしたり留学したりしてもそんなに伸びないと思う.大学生ならまずは必死になってTOEIC700点を目指すくらいでちょうど良い.
こういった傾向が続けば、TOEICのスコアだけではなく、英語会話を面接の中で試す選考が主流になる日が来るかもしれません。
外資企業なら,面接でネイティブとの英会話するのは既に珍しくないよ.しかし例えば技術者に対しては,必ずしも高度な英語力を求めているわけでもない.
ちなみに「面接で英会話もする」ならともかく,「面接で英会話するからTOEICのような試験が不要になる」ようなことはないだろう.
- 「面接で使う英語」と「実務で使う英語」は大きく異なる.
- 短時間の面接だけでは,十分にテストできない.
- 単語力や文法力,正確に聞き取るリスニング力,リーディング力などは,英語面接では計れない.
http://b.hatena.ne.jp/entry/newsbiz.yahoo.co.jp/detail?a=20130408-00000500-biz_san-nb
- id:kidkid1412 TOEICは所詮基礎能力。書いて、しゃべるための素養があるかどうかをみるだけ。TOEFL講座受けてて、TOEICのスコアが高い奴がすくすく伸びてるのをみての感想。
- id:inuda_one 英会話が必要なら,英会話学校に通わせてあげて / 新卒時点でTOEIC750取れているなら,会社にとっても投資に見合ったリターンが期待できるよ
- id:nakakzs むしろTOEICを実務的英語力と過信というか勘違いしている人事が心配。まあ人事ならその会社だけですむけど、最近は似たようなものとして大学受験にTOEFLと言い出している企業人とか政治家とかが。
- id:hanapeko そりゃあんた、日本語ネイティブだって新卒入社まもなくの子が日本語でのビジネスメールや商談や電話をバリバリこなせないのは普通にあることで…新卒一括以上に、即戦力教をなんとかすれと思うわ。
下手なブロークンイングリッシュの「なんちゃって英会話」よりは,TOEICの方が難易度が高かったりする.
- id:kouchi203 「机上での勉強に限らず、会話中心の授業を受講したり、留学生と交流をする場を設けたり、留学をしたりして、活きる「英語力」を身に付ける機会を」 就活がどんどん早まっているのに、そんな呑気がことができるか
これは同意.
英文科以外の学部3年の段階で,会話が全然できないけどTOEIC 700点って十分偉いと思います.*11
- id:rokusan36 読める、聞けるだけでも十分強い。
- id:memento TOEIC では読み聴きのテストしかしないから、話せない・メール書けないのは当然/でも基礎能力はあるはずなので、入社後に訓練すればすぐ身につくのではないでしょうか。
- id:jeffwayne TOEICってそもそもスピーキングとライティングが無いのに話せないとかメールが書けないって文句言うのはおかしい。筆記試験だけ対策して高得点とった人にいきなり公道運転しろって言うようなもの。
- id:tomber TOEICの点数と英語運用力にギャップがあるのはその通りだが、人事担当者が頭を抱えていると言うのはうそ臭いな。大手企業なら折込済みでしょ。
- id:sunin 日本語が母国語の人が英語をマスターすることは難しい。TOEIC900オーバーでも、ネイディブとは雲泥の差。ちゃんと勉強している人は知っている。勉強していない人ほど過剰な期待をする。
- id:Nunocky 7,800点程度で充分と考えてる方がどうかしているというか、採用側がその程度の点数も取れないから使い物になるスコアの基準が分からない、もしくはあまり敷居を上げ過ぎると自分の立場が危うくなるという辺りだろう
- id:gasparl こういうの見ると日本の人事って揃って馬鹿なんじゃないかって思う
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.sankeibiz.jp/econome/news/130407/ecd1304071821005-n1.htm
TOEIC700点も取れない人にスピーキング/ライティングテストを入れても玉砕するだけだし,無駄に時間も金もかかって,学生の懐を直撃するだけ.
そうなのかな?とても興味深いご意見.
あーそれはあるね.この話みたいに.
- 「理系なのに何もできない夫」 http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2013/0331/583383.htm
「難しい技術書が読めて,外国人技術者と技術的なトピックでビシバシ会話できるんなら,日常会話もできるでしょ?ビジネスメールくらい楽勝でしょ?」とか,
「技術論文を読み書きできるんなら,暑中見舞いだってラブレターだってスラスラ書けるよね!」
みたいな誤解をする人は確かに多い気がする.そもそも「ビジネスメール」だって内容によってバラバラだろうに.技術的な報告書,会議の議事録,年賀状,お客様への謝罪等々で,書き方も変わる.日本語ネイティブが日本語で書く場合でも,報告書は書けるけど議事録は内容が分かってないから書けないとかはザラ.
「英語力は面接時に英語面接で試せば良い(キリッ)」というのも,その手の誤解に基づく部分がある気がする.「面接の英会話」が全然できなかったとしても,それはその人の英語力とは必ずしも関係無いのだ.
「TOEICスコア800点台の英語レベルとは」
http://eigohiroba.jp/t/57
追記.だいたい合ってる.
そうは言っても
とはいえ、それより下の段階とは明らかに違っています。どうにかこうにか教科書ではない生の文章も読めるようになりますし、海外ドラマもわかるようになります。いちおう会話が成り立ちますし、得意な分野なら少しは議論することもできます。
特に大きいのが、これくらいの点数まで学習してきた人なら、「翻訳」をしなくなっているだろうことです。文章は英語のまま読んで聞き、発信はまだ翻訳癖が残っているにしても、簡単な文章なら英語のまま頭から出てくるようになってきているレベルだと思います。
英語を勉強してきた人が、初めて「英語の世界・コンテンツ」に触れられるようになる入口の段階ではないかと思います。これまでの「苦行」が「ちょっと楽しい」に変わってくるレベルではないでしょうか。
世界への扉が開く
世界のニュースも、日本のメディアの翻訳記事ではなく、CNN Student Newsを見たり、BBCのサイトで直接読めるようになってきます(少し苦労しますが)。
*1:関係無いけど,このサイトのウザさは作った奴のセンスを疑うわ.この手の企業に騙される若者って,こういうのが好きなのかな? http://www.naitei-jyuku.jp/
*2:日本語と韓国語の語順や文法はソックリなんだそうだ.逐語訳でも8割方意味が通じるくらいだとか.
*3:TOEICの良い点の一つに,「大半の日本人が分布する中の下より下のあたりで威力を発揮するテスト」ということが挙げられる.
*4:ブコメでも指摘があるが,TOEIC 900点でもネイティブには遠く叶わない.それは勉強している人,特に高得点者なら常識.
*5:そういう人事担当って実在する?この人の捏造じゃないのという気も.
*6:TOEICにもスピーキング/ライティングテストが後になって追加されたが,TOEIC 700点台くらいをウロウロしているレベルの人では,ほとんど受けてないんじゃないかな.特に新卒だとそこまで手が回らない.
*7:話す方は自分の好きなように話せるが,聞く方は相手に会わせなければいけない.キャッチボール風にいうならば,話す方は自分の好きな所に投げられるし毎回同じ所に投げたって構わないが,聞くほうは,何時どこにどんな方法で投げられた物であても受け止める必要がある.リスニングの「守備範囲」が広ければ広いほど,より優秀な話者といえるのだ.
*8:「高得点が狙える」とは書いていても,「高得点が取れる」「誰もが900点以上を取れる」と書いてない所がミソか.多くの人が小手先テクニックだけで600点くらいなら狙えたとしても,そもそも600点は高得点では無いし.
*9:「受験テクニックで100点くらい上がった」とか騒いでいる人は,たぶん点数が低い.300点から500点くらいまで上げるのは難しくないが,800点から900点に上げるのは難しい.テストとはそんなものだ.
*10:だいたい大学新卒に一体何を期待してるんだか.中途採用でも英語のスペシャリストが欲しければもっと別の方法で採用しろと.