ヤマト運輸主催のやりがい搾取コンテスト(その2)

AtCoder代表取締役社長のchokudaiです。

ポジショントークヤマト運輸を擁護します.立場を考えるとしかたない.それができない人なら社長なんてやってられない.

それとなによりまだヤマト運輸側の公式見解が出ていないな.

  • 著作権周りはAtCoderの対策不足。ヤマト運輸さんは悪くない
  • 賞金額は海外と比べても相場通り。
  • やりがい搾取云々はどうなんだろう?

著作権の扱いは要議論、責任はAtCoderにあります

ここがけっこう本質ね.

本コンテストの参加者は提出されたプログラムのすべての著作権著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を主催者(ヤマト運輸)に譲渡するものとします。 また、本コンテストの参加者は提出プログラムに対し、著作者人格権を行使しないものとします。

https://atcoder.jp/contests/kuronekoyamato-contest2019
  1. 無条件に完全に著作権を譲渡.1アウト
  2. しかも受賞者だけではなく参加者全員.2アウト
  3. 著作者人格権さえも行使するなと.3アウト

さらに課題は巡回セールスマン問題っぽい奴で,ヤマトの本業.

これに悪意がないなんて一体誰が思おうか.全プログラマーに対する侮辱だ.*1


お遊びのコンテストだから,滅多に実用的なアプリなんて出るわけがないというのは同意だ.*2

問題は「もし実用的なアプリが出たらどうするか」の扱いだ.その際に「ヤマト運輸の丸儲けでウハウハ!」というのが現在のやり口.非常に汚い.しかも入賞者だけでなく応募者全員が著作権放棄して著作者人格権も行使するなとなると,やりすぎではないか.

  • id:YaSuYuKi 単なる著作権譲渡だけでなく、二次創作に関するもの、すなわち、手元に残ったソースコードを参考に類似したコードを作成する行為まで制限されている(27条、28条)。将来の行動制限まで含まれるには低すぎる条件

それどころか実用的でないものについてさえ,当の本人がそのコードを利用できないとか,そこまでする必用があるか?遊びなのに?




かなりひどいけど,受賞作のみ.さすがに「参加者全員」までは言ってないようだ.






写真やイラストなら盗作すれば一目瞭然だし,素材として加工してもトレスがバレることがある.*3

それに比べるとソフトウエアの保護ははるかに難しく,たとえ企業にパクられても立証するのは困難.著作権まで譲渡されればもはや何も残らず,開発者は泣き寝入りするしかなくなる.

賞金額については一般的な相場通りです

単なる賞金としては,そうだ.そしてそれはミスリードだ. 経営者なんだから確信犯だろう.

ヤマト運輸にとっての巡回セールスマン問題となると普通に仕事で利用するアプリであって,業務外のお遊びでは無くなってる.お遊びのコンテストの賞金としては妥当でも,実質的に研究開発業務である以上はその値段では安すぎる.全チームに30万円でも安すぎるし,おそらく参加者の大半は0円なのだからボッタクリだ.


グラフ理論の魅惑の世界- 巡回セールスマン問題、四色問題、中国人郵便配達問題・・・ 巡回セールスマン問題への招待 (シリーズ「現代人の数理」) 驚きの数学 巡回セールスマン問題 The Traveling Salesman Problem: A Computational Study (Princeton Series in Applied Mathematics) The Traveling Salesman Problem and Its Variations (Combinatorial Optimization) Advances in Combinatorial Optimization: Linear Programming Formulations of the Traveling Salesman and Other Hard Combinatorial Optimization Problems Traveling Salesman Problem (TSP): A Comparative Analysis: Optimization Techniques for Traveling Salesman Problem

書籍が出るくらいには定番の難問の一つ.

ひょっとして擁護してる側の人って,まさか巡回セールスマン問題を知らなかったりするのかな?だとすると,なんでプログラマーがこれを問題にしてるかも分かってないのかも.*4 *5


Netflix Prize」と比較する声も見られた.

受賞者に100万ドルとまではいかなくても,30万円は論外だろう.しかも応募者全員とかもうね.



さて,ここまでで「搾取」が成立している.あとは「やりがい」の部分だけだ.


普通はボッタクリ仕事なら誰もやらない.にもかかわらず「(実質的には巡回セールスマン問題の研究開発業務でも,)これはコンテストだから」「参加者が自発的に楽しんでるから良いじゃない」と擁護する人がいる.

それこそが「やりがい搾取」なんだってば.


ヤマト運輸の開発業務を、コンテストという皮に包んで提供して搾取します.でも無知な彼等はプログラミングを楽しんでるから無料でもいいでしょ,お金払う必要ないでしょ」.

それをやりがい搾取と言わずしてなんと言う.

もしこの実質外注の名ばかりコンテストが「コンテスト」の名を冠してなくてクラウドワークスあたりで出されていれば,搾取の本質にもっと多くの人が気付いたのでは無いだろうか.

  • 業務内容:ヤマト運輸のために巡回セールスマン問題のプログラムの試作開発をしてもらいます.
  • 代金:優秀者1チームに30万円.(以下略)
  • それ以外の人には支払われません.あしからずご了承ください.
  • 代金支払いの有無にかかわらず,ソースコードや設計資料を全て納品してもらいます.また納品物に関わる全ての著作権ヤマト運輸に無条件で譲渡してもらいます.(以下略)

ふるってご参加ください.

やりがいがなければ,完全な搾取ですよね,コレ.

コンテストの優秀作品を実務転用するのは悪い事?

どんどんすればいいと思います.


ただし,妥当な対価を支払っての話です.


しかし今までの所,ヤマト運輸にその気はないようですよ.もし代価を支払う気があるなら,例の条項を取り下げればいいだけ.話は簡単です.


https://b.hatena.ne.jp/entry/chokudai.hatenablog.com/entry/2019/07/03/141035

  • id:outinikaerou 賞金について国内外色々調べて書いたのなら、同じコンテストでの著作権周りについてもどうせ調べてるんだから書いた方が分かりやすいと思うんだが
  • id:sisopt 著作権の所在を明確にせず、賞金は相場って強弁するのは筋が悪いだろう。分かってて言ってるだろうことがさらに悪質。サービス残業の有り無しを明確にせず給料は相場って主張するのと似てる。



  • id:blunote アルゴリズム周り(もっと広げると数学関連)は、その可用性の高さの割に、対価が低く設定されていると思っていた。コンテストとして開けた形になってるのは良いけれども、知的財産についての認識の甘さは残念に思う。
  • id:YaSuYuKi 単なる著作権譲渡だけでなく、二次創作に関するもの、すなわち、手元に残ったソースコードを参考に類似したコードを作成する行為まで制限されている(27条、28条)。将来の行動制限まで含まれるには低すぎる条件
  • id:wakwak_koba 金額の多寡じゃなくて、応募時点で著作権譲渡とされてる点については? もし落選したとき、プログラムを佐川に持ち込んだら著作権侵害になっちゃうでしょ?
  • id:damselfish 成果物を利用したいという意図があるのかどうか、どういう目的であのような著作権の扱いを設定したのか、あたりを明確にできないと筋の通った説明自体ができないのでは、という感じ。
  • id:dede21 火消しに必死だな。リクルートの入れ知恵か。著作権絡みが甘いとか言いつつ取り下げないところは頑固。広告業が何を抜かそうと搾取は事実。リクルートの法務は役不足だから電通に株を渡して指南してもらったら?
  • id:modal_soul "賞金が少ない"、じゃなくて、"著作権の譲渡"と"著作者人格権を行使できない"割に少ない、って話では?一般的な賞金100万円のコンテストも著作権譲渡が一般的?/何れにせよ著作権の話がいい感じに整理されるの待ち
  • id:BlueSkyDetector 個人的には著作権の譲渡の代わりにApache License 2.0とかのOSSで提供する、になれば他はこれで全然妥当だと思った。厳密に考えると著作権譲渡だと今後同じスニペット使えないとかになって面倒そうなので。
  • id:gabill 著作権譲渡って運営側にとってはトラブルを避けるお守り程度のものかもしれないけど、参加する人にとっては抵抗感あるよなぁ。既にコメント上がってるOSSライセンスが落としどころだと思う。
  • id:nanoha3 NASAは政府&宇宙案件だから、別の話でしょ。ゴリゴリの成果物納品著作権譲渡ルールで、民間企業の案件を投げてる部分が問題。競技と実務のバランスが見えてないし、脇が甘い。/クラウドソーシングでない形が望ましい。
  • id:sabacurry 一番最悪なパターンは優秀作品にも選ばれずこっそり盗用された場合。権利関係が完全にクリーンなことは誰が証明できるのだろう。
  • id:cbkf テーマが「宅配ドライバーの配達ルートの効率化」でコア寄り業務ロジック系だったので仕事感が強く出てしまった。開催期間が半月、0.5人月としてアルゴリズム開発・丸々譲渡でこれだけか、という計算は自分もした。
  • id:dekaino 賞金額はこれが相場だから…というのは言い訳にならないと思う。世間のアニメーターとか保育士や介護士の給料が安くやりがい搾取と言われてるのに、相場だからと同じ低賃金で新規募集したらやりがい搾取追認だろう。
  • id:rufutani デザインのコンペでもこの辺の問題は昔からあって、「権利の譲渡対価は受賞賞金をもって充てるものとする」という形にして受賞作品のみ権利譲渡することが多いと思う。
  • id:zmk99 楽しみでやってる納得してやってるは搾取の典型的言い訳では(これがそうであると云う事ではなく)
  • id:terurou 権利関係は「そんなことする出題者おらんでしょ」という性善説やってると参加者側が将来法的リスクを負う可能性があるので安全側に倒した方がいい。OSSライセンスもそういう一面がある。
  • id:nobububu 今の直大さんの人柄だけで判断するのは早計。人間、気が変わることもある。グリーのような例もある。

SUNが倒産してOracleに買収されたりとか,Amazonのワンクリック特許事件とか有名.

  • id:hat_24ckg 実務に活用できたら、その成果に応じて適切な報酬が出れば文句は出ないんじゃないかなあ。どう測るか?の問題はつきまとうけど。最低限建前だけでも、そうなら。
  • id:chintaro3 著作権の譲渡が無いなら、コンテストの賞金とは別に、実務で使うにあたっての使用料が支払われるという話になるはず。ちゃんとしとかないと、大違いですよ。
  • id:Helfard 優勝者に改めて発注します、だとどうだったんだろ。

だからあの条項を撤廃して,新たに契約.価格は個別で応相談で良いんですよ.


  • id:GEROMAX だびたびNASAが引き合いに出されるけど、ネームバリューの点を考慮すると比較対象にならないような。箔付けの意味合いもあるでしょ。
  • id:kijtra NASAと比べるとネームバリュー(応募する価値)が全く違う気が


  • id:shinp 汎用性のまるでないコードの著作権を譲渡することに躊躇するってお前のコードどんだけ価値あるんだよって言いたくはなる罠。無視でええとおもうぞ、そういうのは。

巡回セールスマン問題って,基本的で応用範囲は広いですよ.

あ-,まさか巡回セールスマン問題を知らない人っている??

  • id:mnnn 自社開催のコンテストなのに他人事みたいな書き方になってる箇所がちょいちょいあるのはなんでなんだろう 場所を提供してるだけってことなの?

すっとぼけてるだけでは.ポジショントークだもの.

*1:これでもかなりオブラートに包んで書いている.はらわたが煮えくりかえる思いだ.

*2:しかしヤマト運輸側は,これを遊びのコンテストで,有用なコードも出てこないなんて考えてないと思うよ.もしそうなら根こそぎ著作権譲渡なんてアコギな条件を出してくるわけがない.これは価値のあるソフトが出てくる前提で,それを根こそぎ自社の財産にするためのものだ.
それにもし違ってたら,指摘された時点で二つ返事で撤回してるよ.撤回しなかったってことは,彼等にとってはそこが重要で価値のあるものだったからだろう.

*3:イデアだけでもバレる場合がある. http://javablack.hatenablog.com/entry/20180121/p1

*4:自転車レースと称して UberEATSをやらせて,一銭もお金を払わないような話だよ.

*5:あ,よく見たら文章中に 「巡回セールスマン問題」も「中国の郵便屋さん問題」も書いてないぞ.さては確信犯だな.まさか知らないとは言わせない.