ヤマト運輸主催のやりがい搾取コンテスト(その2)
- 一回目 http://javablack.hatenablog.com/entry/2019/07/03/080000
- 番外 http://javablack.hatenablog.com/entry/2019/07/06/102934
ポジショントークでヤマト運輸を擁護します.立場を考えるとしかたない.それができない人なら社長なんてやってられない.
それとなによりまだヤマト運輸側の公式見解が出ていないな.
ここがけっこう本質ね.
本コンテストの参加者は提出されたプログラムのすべての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を主催者(ヤマト運輸)に譲渡するものとします。 また、本コンテストの参加者は提出プログラムに対し、著作者人格権を行使しないものとします。
https://atcoder.jp/contests/kuronekoyamato-contest2019
さらに課題は巡回セールスマン問題っぽい奴で,ヤマトの本業.
これに悪意がないなんて一体誰が思おうか.全プログラマーに対する侮辱だ.*1
お遊びのコンテストだから,滅多に実用的なアプリなんて出るわけがないというのは同意だ.*2
問題は「もし実用的なアプリが出たらどうするか」の扱いだ.その際に「ヤマト運輸の丸儲けでウハウハ!」というのが現在のやり口.非常に汚い.しかも入賞者だけでなく応募者全員が著作権放棄して著作者人格権も行使するなとなると,やりすぎではないか.
- id:YaSuYuKi 単なる著作権譲渡だけでなく、二次創作に関するもの、すなわち、手元に残ったソースコードを参考に類似したコードを作成する行為まで制限されている(27条、28条)。将来の行動制限まで含まれるには低すぎる条件
それどころか実用的でないものについてさえ,当の本人がそのコードを利用できないとか,そこまでする必用があるか?遊びなのに?
タカラトミーハッカソン:ひどす// 本イベントで作成された作品のうち、受賞作品を利用する権利及び受賞作品に係る特許権、実用新案権、意匠権...商標権、著作権 ... その他の知的財産権の一切は、主催者に帰属するものとします。https://t.co/akCG9wk0eJ
— gaku@リスクファインダー (@tao_gaku) 2015年12月10日
かなりひどいけど,受賞作のみ.さすがに「参加者全員」までは言ってないようだ.
今月のアサヒカメラの特集にもあったけど最近の写真コンテストは応募作品の著作権は主催者に無条件譲渡するとかいう酷い規約が多いからコンテスト応募するときは注意ね。こんなコンテストに応募してしまうと、それ以降その写真は自分の写真なのに使ったらパクり写真になるから。。
— studio9/写真のことが全部わかる本 発売中! (@photostudio9) 2018年1月9日
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写真コンテストでも、受賞作品の著作権は撮影者だけど、自社サービスでプロモーションなどに使いますというのが普通だけど、悪質なコンテストは著作権ごと譲渡ということになっていて、そうなるとその作品を自分のサイトに勝手に使うことはできなくなるので注意。
— studio9/写真のことが全部わかる本 発売中! (@photostudio9) 2018年9月18日
写真コンテストも含めて、著作権放棄せよっていうやつは、主催者が著作権よく分からずにとりあえずもらっておくかというパターンか、使い道はあんまり考えてないけどとりあえず写真もらっておくかというパターンだろうな。
— studio9/写真のことが全部わかる本 発売中! (@photostudio9) 2019年4月25日
ちょっと気になり「ぼくの絵わたしの絵展」やっている、全国教育美術展のサイト見たら「応募作品の所有権並びに入賞作品の著作権は、主催者に帰属」ってあり、これ出したらダメなやつだ。入選作の優先使用権ならわかるんだけど、これ美術関係者疑問に思わないのかな?応募させる学校関係者は、権利条項
— 今村拓馬 (@imamuratakuma) 2019年2月6日
に無関心なのか?応募時点で著作権譲渡しろというのはとても良くない。ちなみに、写真コンテストでもまだたまにあるんだけど、見つけたら写真家協会は主催者に申し入れを行っていた。「作品と権利」ってとても大事なことだし、美術に関わる人なら一層わかるはずなのに、とても残念だ。
— 今村拓馬 (@imamuratakuma) 2019年2月6日
二重投稿はダメだけど、落選した小説を別の新人賞に投稿するのはOKです。著作権法上も問題ありません。A社で落選、B社で出版・大売れというのはよくあることです。私は某社で「お預かり」のまま握りつぶされた小説を、担当者退職レーベル廃刊でフランス書院に投稿したら大賞受賞でした。
— わかつきひかる (@Wakatuki_Hikaru) 2019年6月12日
お預かりの間は、他社に投稿、持ち込みできません。
— わかつきひかる (@Wakatuki_Hikaru) 2019年6月12日
私は「原稿を返してください」と言ったのですが「女の書いた少女漫画みたいな小説が売れるわけがないが、ウチのレーベルの力で赤字が出ないようにして発売してやると言ってるんだ」と怒鳴られて、返してもらえませんでした。廃刊で投稿できました。
写真やイラストなら盗作すれば一目瞭然だし,素材として加工してもトレスがバレることがある.*3
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賞金額については一般的な相場通りです
単なる賞金としては,そうだ.そしてそれはミスリードだ. 経営者なんだから確信犯だろう.
ヤマト運輸にとっての巡回セールスマン問題となると普通に仕事で利用するアプリであって,業務外のお遊びでは無くなってる.お遊びのコンテストの賞金としては妥当でも,実質的に研究開発業務である以上はその値段では安すぎる.全チームに30万円でも安すぎるし,おそらく参加者の大半は0円なのだからボッタクリだ.
書籍が出るくらいには定番の難問の一つ.
ひょっとして擁護してる側の人って,まさか「巡回セールスマン問題」を知らなかったりするのかな?だとすると,なんでプログラマーがこれを問題にしてるかも分かってないのかも.*4 *5
「Netflix Prize」と比較する声も見られた.
- 「賞金100万ドル。史上最大級のアルゴリズム・コンテスト「Netflix Prize」がついに決着」 https://blogs.itmedia.co.jp/saito/2009/09/httpjournalmyco.html
- 「Netflixの挑戦にヒントを得て、クラウドソーシングに乗り出すべき5つの業界」 https://jp.techcrunch.com/2016/11/11/201611105-industries-that-should-take-a-cue-from-netflix-and-crowdsource-parts-of-its-tech/
受賞者に100万ドルとまではいかなくても,30万円は論外だろう.しかも応募者全員とかもうね.
さて,ここまでで「搾取」が成立している.あとは「やりがい」の部分だけだ.
普通はボッタクリ仕事なら誰もやらない.にもかかわらず「(実質的には巡回セールスマン問題の研究開発業務でも,)これはコンテストだから」「参加者が自発的に楽しんでるから良いじゃない」と擁護する人がいる.
それこそが「やりがい搾取」なんだってば.
「ヤマト運輸の開発業務を、コンテストという皮に包んで提供して搾取します.でも無知な彼等はプログラミングを楽しんでるから無料でもいいでしょ,お金払う必要ないでしょ」.
それをやりがい搾取と言わずしてなんと言う.
もしこの実質外注の名ばかりコンテストが「コンテスト」の名を冠してなくてクラウドワークスあたりで出されていれば,搾取の本質にもっと多くの人が気付いたのでは無いだろうか.
- 業務内容:ヤマト運輸のために巡回セールスマン問題のプログラムの試作開発をしてもらいます.
- 代金:優秀者1チームに30万円.(以下略)
- それ以外の人には支払われません.あしからずご了承ください.
- 代金支払いの有無にかかわらず,ソースコードや設計資料を全て納品してもらいます.また納品物に関わる全ての著作権はヤマト運輸に無条件で譲渡してもらいます.(以下略)
ふるってご参加ください.
やりがいがなければ,完全な搾取ですよね,コレ.
コンテストの優秀作品を実務転用するのは悪い事?
どんどんすればいいと思います.
ただし,妥当な対価を支払っての話です.
しかし今までの所,ヤマト運輸にその気はないようですよ.もし代価を支払う気があるなら,例の条項を取り下げればいいだけ.話は簡単です.
https://b.hatena.ne.jp/entry/chokudai.hatenablog.com/entry/2019/07/03/141035
- id:outinikaerou 賞金について国内外色々調べて書いたのなら、同じコンテストでの著作権周りについてもどうせ調べてるんだから書いた方が分かりやすいと思うんだが
- id:sisopt 著作権の所在を明確にせず、賞金は相場って強弁するのは筋が悪いだろう。分かってて言ってるだろうことがさらに悪質。サービス残業の有り無しを明確にせず給料は相場って主張するのと似てる。
- id:mshota 著作権周りの検討を充分にせずに、プログラミングコンテストの開催のプロフェッショナルと名乗るのはなんとも
- id:chako00 著作権譲渡は良くないのではないか?「著作権譲渡」が設定責任はAtCoder。AtCoderは、オンライン上に無償の労働力を生み出すために、コンテストを開催コンテスト参加者に無償労働をさせている 悪く見ると「やりがい搾取」
- id:blunote アルゴリズム周り(もっと広げると数学関連)は、その可用性の高さの割に、対価が低く設定されていると思っていた。コンテストとして開けた形になってるのは良いけれども、知的財産についての認識の甘さは残念に思う。
- id:YaSuYuKi 単なる著作権譲渡だけでなく、二次創作に関するもの、すなわち、手元に残ったソースコードを参考に類似したコードを作成する行為まで制限されている(27条、28条)。将来の行動制限まで含まれるには低すぎる条件
- id:wakwak_koba 金額の多寡じゃなくて、応募時点で著作権譲渡とされてる点については? もし落選したとき、プログラムを佐川に持ち込んだら著作権侵害になっちゃうでしょ?
- id:damselfish 成果物を利用したいという意図があるのかどうか、どういう目的であのような著作権の扱いを設定したのか、あたりを明確にできないと筋の通った説明自体ができないのでは、という感じ。
- id:dede21 火消しに必死だな。リクルートの入れ知恵か。著作権絡みが甘いとか言いつつ取り下げないところは頑固。広告業が何を抜かそうと搾取は事実。リクルートの法務は役不足だから電通に株を渡して指南してもらったら?
- id:modal_soul "賞金が少ない"、じゃなくて、"著作権の譲渡"と"著作者人格権を行使できない"割に少ない、って話では?一般的な賞金100万円のコンテストも著作権譲渡が一般的?/何れにせよ著作権の話がいい感じに整理されるの待ち
- id:BlueSkyDetector 個人的には著作権の譲渡の代わりにApache License 2.0とかのOSSで提供する、になれば他はこれで全然妥当だと思った。厳密に考えると著作権譲渡だと今後同じスニペット使えないとかになって面倒そうなので。
- id:gabill 著作権譲渡って運営側にとってはトラブルを避けるお守り程度のものかもしれないけど、参加する人にとっては抵抗感あるよなぁ。既にコメント上がってるOSSライセンスが落としどころだと思う。
- id:nanoha3 NASAは政府&宇宙案件だから、別の話でしょ。ゴリゴリの成果物納品著作権譲渡ルールで、民間企業の案件を投げてる部分が問題。競技と実務のバランスが見えてないし、脇が甘い。/クラウドソーシングでない形が望ましい。
- id:sabacurry 一番最悪なパターンは優秀作品にも選ばれずこっそり盗用された場合。権利関係が完全にクリーンなことは誰が証明できるのだろう。
- id:cbkf テーマが「宅配ドライバーの配達ルートの効率化」でコア寄り業務ロジック系だったので仕事感が強く出てしまった。開催期間が半月、0.5人月としてアルゴリズム開発・丸々譲渡でこれだけか、という計算は自分もした。
- id:dekaino 賞金額はこれが相場だから…というのは言い訳にならないと思う。世間のアニメーターとか保育士や介護士の給料が安くやりがい搾取と言われてるのに、相場だからと同じ低賃金で新規募集したらやりがい搾取追認だろう。
- id:rufutani デザインのコンペでもこの辺の問題は昔からあって、「権利の譲渡対価は受賞賞金をもって充てるものとする」という形にして受賞作品のみ権利譲渡することが多いと思う。
- id:zmk99 楽しみでやってる納得してやってるは搾取の典型的言い訳では(これがそうであると云う事ではなく)
- id:terurou 権利関係は「そんなことする出題者おらんでしょ」という性善説やってると参加者側が将来法的リスクを負う可能性があるので安全側に倒した方がいい。OSSライセンスもそういう一面がある。
- id:nobububu 今の直大さんの人柄だけで判断するのは早計。人間、気が変わることもある。グリーのような例もある。
SUNが倒産してOracleに買収されたりとか,Amazonのワンクリック特許事件とか有名.
- id:hat_24ckg 実務に活用できたら、その成果に応じて適切な報酬が出れば文句は出ないんじゃないかなあ。どう測るか?の問題はつきまとうけど。最低限建前だけでも、そうなら。
- id:chintaro3 著作権の譲渡が無いなら、コンテストの賞金とは別に、実務で使うにあたっての使用料が支払われるという話になるはず。ちゃんとしとかないと、大違いですよ。
- id:Helfard 優勝者に改めて発注します、だとどうだったんだろ。
だからあの条項を撤廃して,新たに契約.価格は個別で応相談で良いんですよ.
- id:GEROMAX だびたびNASAが引き合いに出されるけど、ネームバリューの点を考慮すると比較対象にならないような。箔付けの意味合いもあるでしょ。
- id:kijtra NASAと比べるとネームバリュー(応募する価値)が全く違う気が
巡回セールスマン問題って,基本的で応用範囲は広いですよ.
あ-,まさか巡回セールスマン問題を知らない人っている??
- id:mnnn 自社開催のコンテストなのに他人事みたいな書き方になってる箇所がちょいちょいあるのはなんでなんだろう 場所を提供してるだけってことなの?
すっとぼけてるだけでは.ポジショントークだもの.
*1:これでもかなりオブラートに包んで書いている.はらわたが煮えくりかえる思いだ.
*2:しかしヤマト運輸側は,これを遊びのコンテストで,有用なコードも出てこないなんて考えてないと思うよ.もしそうなら根こそぎ著作権譲渡なんてアコギな条件を出してくるわけがない.これは価値のあるソフトが出てくる前提で,それを根こそぎ自社の財産にするためのものだ.
それにもし違ってたら,指摘された時点で二つ返事で撤回してるよ.撤回しなかったってことは,彼等にとってはそこが重要で価値のあるものだったからだろう.
*3:アイデアだけでもバレる場合がある. http://javablack.hatenablog.com/entry/20180121/p1
*4:自転車レースと称して UberEATSをやらせて,一銭もお金を払わないような話だよ.
*5:あ,よく見たら文章中に 「巡回セールスマン問題」も「中国の郵便屋さん問題」も書いてないぞ.さては確信犯だな.まさか知らないとは言わせない.